神殿の最深部は、外の喧騒から切り離された井戸の底のように静かだった。だがその静けさは、嵐の前に息を潜める獣に似ている。燈子は石盤の前に膝をつき、溝を走る水の細い筋を見つめた。星形の中心から外周へ向かう流れは、これまでの記号の読みでは説明しきれないほどはっきりしている。警告だけではない。動かし方が書かれている。その確信が、胸の中で硬い輪郭を持ち始めていた。 遅れて入ってきたアディールが、手にした古い記録板を差し出した。南回廊の瓦礫の裏から見つかったものだという。刻まれた線は簡素だったが、石盤と同じ星形の外側に、小さな人の列が描かれていた。列は神殿から離れるのではなく、いったん外周通路へ沿って回り、最後に北東の岩棚へ集まっている。 「避難路だ」 燈子がつぶやくと、ミラが地図を広げた。北東の岩棚は、今は使われていない採石跡で、地盤が最も安定している高所だった。都市の住居区から遠く見えて、実際には古い排水路でつながっている。 そこへ管理担当が駆け込み、顔をこわばらせて告げた。 「南西区画の裂け目が広がっています。外周の通路も一部で砂に埋まり始めた」 もう猶予はない。燈子は立ち上がり、石盤の外周を指でなぞった。溝の節目ごとに、小さな刻みがある。数ではなく順番だ。どこを先に開き、どこを最後まで閉じておくか。その順番を誤れば、水も砂も逃げ道を失い、都市の真下で絡まり合う。 「北門から人を動かして。南西は先に空ける。でも西の外周路は最後まで残す。そこが開きすぎると砂が一気に入る」 ラシードは入口に立ったまま、それを聞いていた。もう彼の肩書きは部屋の重みにならなかった。燈子が向き直ると、彼は短く息をのみ、視線を伏せた。 「私が判断を遅らせた」 その言葉は言い訳ではなく、ようやく落ちた石のようだった。燈子は責めなかった。 「なら、今はあなたが人を動かしてください。遅らせた分まで」 ラシードは数秒黙り、それから深くうなずいた。彼が外へ走る足音を聞きながら、燈子は壁面へ目を向けた。鳥の列の先に生まれていた新しいひびは、もう一本増えている。二本の線は並行せず、わずかに開いて北東を示していた。まるで石そのものが避難の方向を指し示しているようだった。 外へ出ると、都市はすでにざわめき始めていた。天幕の綱が鳴り、遠い地平では黄褐色の幕が空を削りながら近づいてくる。人々の不安は乾いた草の火のように広がる。燈子は管理棟の屋上に上がり、複写図を広げて叫んだ。北門へ、外周路に沿って、荷ではなく人を先に。測量班が杭を旗の代わりに立て、作業員たちが道をつなぎ、アディールが各区画へ伝令を走らせる。ばらばらだった隊の動きが、初めて一つの流れになった。 そのとき足元で低い唸りが起き、地面がわずかに沈んだ。南西の空で砂煙が噴き上がる。だが同時に、神殿下の古い排水路から濁った水が走り、外周の低地へ逃げていくのが見えた。壁画の示した順路が、都市そのものを一筆書きのように導き始めていた。燈子は息を吸い、迫る砂の壁をまっすぐ見据えた。ここから先は、石が教えた道を人の足で完成させる番だった。
壁画ひび割れ予兆録
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