昼の光が面談室の細い窓に差し込み、机の上の資料だけを白く浮かせていた。涼太は向かいの男の顔を見ながら、同じ質問を少し言い換えては投げ返した。 「つまり、申告書にある出荷先は、最初からこの港で間違いないんですね」 担当者は一拍置いてから、薄い笑みを作る。 「ええ、港湾管理会社の手配で。通常の流通経路です」 「通常、ですか」 涼太は書類を指で押さえた。昨日確認した印字と、今の説明が噛み合わない。いや、噛み合わないというより、毎回少しずつ角度が違う。最初は実証事業だった。次は支援用の転用だと言い、その次には保管の都合だと曖昧に濁した。言葉だけが滑らかに変わっていく。 「提出書類では、再包装の理由が積み替えの安全確認になっています」 「そうですね。物流上、必要だったので」 「安全確認で封印を開けるのは、よくあることなんですか」 担当者の指先が、わずかに膝の上で動いた。 「ケースによりますよ。港は生き物ですから、状況が変わる」 「生き物、ね」 涼太はその言い方を反芻した。生き物みたいに見えるのは、変化しているからではない。変化しているように見せて、責任の形をぼかしているからだ。 そのころ七海は、別の資料束をめくる手を止めていた。押収予定だった箱の番号が、災害支援物資の積み替え記録に静かに紛れ込んでいる。被災地向けの便として記された欄の端に、見覚えのあるロットが折り込まれていた。 「これ、支援物資の記録とつながってる」 七海の声は低かったが、はっきりしていた。 「本来なら別管理のはずなのに、同じ流れで動いてる」 彼女はページを一枚ずらし、日付と積載先を示す。善意の名目で動いた荷が、途中で別の箱と肩を並べている。救いを装った通路に、別の目的が滑り込んでいた。 涼太は面談室の会話を続けながら、その報せを視線だけで受け取った。担当者はなおも穏やかな口調を崩さない。 「地域への供給を優先しただけです。食料事情は、皆さんもご存じでしょう」 「ええ、だからこそ確認しています」 涼太は笑わなかった。食料を支える言葉は、たしかに人を動かす。だが、強い言葉ほど裏で何かを隠しやすい。 七海が小さく資料を叩く。 「善意の記録が、隠れ蓑になってる」 涼太は頷いた。面談室の空気は静かだ。けれど静かであるほど、書類の上の嘘が整って見える。 「港の外に見せる顔と、中で回す顔が違うんだな」 「たぶん、違うんじゃなくて、同時に使ってる」 七海の言葉に、涼太は押し黙る。目の前の担当者はまだ同じ笑みを貼りつけているが、その説明はもう一枚ずつ剥がれていた。救済の言葉、物流の都合、実証の名目。どれもきれいで、どれも少しずつずれている。 涼太は資料の端を整え、次の質問を口にした。 「では確認します。あなたたちが守りたいのは、書類の整合性ですか。それとも、中身ですか」
検疫線上の飢作圧
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