エラベノベル堂

検疫線上の飢作圧

全年齢

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7章 / 全10

午後の通信室は、機械の唸りと冷えた空調の音だけがやけに近かった。涼太は椅子に浅く腰かけ、端末の画面を何度も切り替える。監査室前で受け取った資料の流れを追ううち、一本の線がじわじわと浮かび上がってきた。 「ここだ」 七海が画面の端を指で示す。物流システム改修会社の名前が、港の受け入れ順の設定履歴に残っていた。単なる保守記録ではない。苗木の到着順、検疫の優先順、確認保留の送り先まで、見えない欄の操作が重なっている。 涼太は息を止めた。 「受け入れの順番を、意図的に動かしてる」 「うん。しかも、検査に回る前から」 画面を一枚進めるたび、書類の整い方が逆に不自然に見えてくる。整っているのではない。整って見えるように、先に曲げられていたのだ。涼太は流出元の痕跡をたどり、別の記録を開いた。そこには、食料対策の実証事業という言葉が、驚くほど丁寧に並んでいる。 「これ、政府の事業に紛れ込んでる」 七海の声が低くなる。 「表向きは合法だ。事業名も、手続きも、全部通るようにできてる」 涼太は資料の端を押さえた。合法のはずの紙の中に、危険な苗木が静かに混ざっている。しかも、単に混ざっているだけじゃない。事業の名目で流れを作り、市場へ出る前に囲い込む。先に押さえた者だけが利益を得るように、最初から筋道が引かれていた。 「合法と危険が、同じ紙の上にいる」 自分の声が、ひどく遠く聞こえた。七海も言葉を失い、端末の光を見つめたまま動かない。画面の中では、正式な印字が静かに並んでいる。だがその静けさが、いちばん怖い。 涼太は別のファイルを開き、ロット番号と事業名を重ねた。どちらも正しい。正しいからこそ、誰も止められない形になっている。検疫の印、流通の記録、実証の承認。ばらばらに見える書類が、ひとつの狙いに向かってきれいに噛み合っていた。 「こんなの、最初から通るように作られてたんだ」 七海がやっと息を吐く。 「通るから安全、じゃないんだね」 涼太はうなずいた。安全に見えるよう整えた先で、危うさが育っていた。通信室の窓には港の灯りがにじみ、遠くの倉庫群が小さく揺れて見える。そこに積まれた苗木の数も、書類の厚みも、もうただの現物ではない。 二人は黙ったまま、同じ画面を見つめ続けた。言葉を失うほど、答えははっきりしていた。

7章 / 全10

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