公開説明会の会場は、夕方の熱気で息が詰まりそうだった。椅子はほとんど埋まり、港の利用者や農家、関係者たちの視線が前方の壇上に集まっている。涼太は端の席ではなく、あえて通路に近い位置に立った。逃げないためでもあり、逃がさないためでもある。 「では、実証事業の成果についてご説明します」 企業側の担当者が、用意された言葉を滑らせる。その瞬間、涼太は持ち込んだ資料束を掲げた。 「その前に、現物を見てください」 ざわり、と会場が揺れた。七海がすぐに続く。スクリーンに映したのは、栽培試験の失敗記録だった。発芽率、病害の広がり、在来品種への影響。そこに、地域農家から集めた記録を重ねると、数値の並びが妙に噛み合わない。 「おかしいな」 前列の誰かが呟いた。 涼太は指で画面を示す。 「説明資料では成功率が高く見えます。でも、こちらの実測では逆です。しかも、被害の出方が同じ地点に偏っている」 「そんなはずは」 担当者の声が一段だけ高くなる。だが、次の瞬間には会場の空気が変わっていた。生活に直結する話だ。希望を買うように見せられていた人ほど、数字の食い違いに敏感だった。 「うちは去年、苗を入れてすぐ駄目になったんだ」 「資料と違うじゃないか」 「本当に増えるなら、なんで隠してた」 ざわめきが広がる。涼太はそこで七海に目配せした。七海は一歩前に出て、支援物資の積み替え記録を開く。 「こちらをご覧ください。災害支援の名目で流された苗木の記録です。別便のはずの荷が、実証事業の流れに紛れ込んでいました」 スクリーンに映し出された番号を見て、客席の何人かが息をのむ。 「食料危機への対策として見せていましたが、実際には別の目的がありました。善意の記録が、流通を通すために使われていたんです」 担当者は何か言い返そうと口を開いたが、もう遅かった。会場の視線は、説明する側ではなく、食い違った記録のほうへ移っている。 「支援って言葉で、ごまかしてたのか」 「危ないのは苗じゃない、やり方だ」 言葉が次々に飛ぶ。涼太は壇上を見上げたまま、胸の奥で静かに息を吐いた。説明会は、まだ終わっていない。だが、企業が用意した筋書きは、もう元には戻らなかった。
検疫線上の飢作圧
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