エラベノベル堂

深夜書店 返品本相談室

全年齢

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2章 / 全10

「未菜さん、これも……」 朝陽は、今度は二冊目の返本をそっと差し出した。見返しの裏に、また同じ折り方の紙片が潜んでいたのだ。未菜は一瞬だけ眉を上げ、指先で丁寧に受け取る。 「もう一枚あるとはね」 「偶然じゃない、ですよね」 「少なくとも、同じ人の手癖だと思っていい」 地下倉庫の一角にある相談室は、客席の喧騒から切り離されたみたいに静かだった。蛍光灯の白い光が、返本の山と記録棚を平板に照らしている。未菜はメモを広げ、伝票をめくった。 「さっきの一枚と照合するね。返本時刻は二十一時二分、搬入経路は正面の受け渡し口。こっちは二十一時十分、同じ口から入ってるはずだけど、記入が少し曖昧」 「曖昧、ですか」 「棚卸しの途中で書いたみたいな崩れ方。記録と紙の動きが、ぴたりと重ならない」 朝陽は息をのんだ。ほんのわずかな食い違いなのに、紙の上の線が急に怪しく見える。 「つまり、返本の流れを知ってる誰かが、記録をずらしてる……?」 「そこまではまだ断定できない。でも、相談室に届く経路を把握してるのは確かね」 そのとき朝陽がもう一冊を開くと、またしても同じ折り目の紙が落ちかけた。未菜が軽く舌打ちする。 「今度はどうだった?」 朝陽は紙片の文字を読んで、首をかしげた。 「地名……です。駅の北側の、空き地に近い通りの名前」 未菜の表情が、ほんの少しだけ固くなる。 「そこ、先週、小さな火災があった場所だ」 「火災……」 「被害は大きくなかったけど、近所じゃ妙に話題になってた。こんな書き方をするなんて、偶然の落書きには見えないわね」 朝陽は紙片を見つめた。たった一行の地名だけなのに、そこに人の気配より先に、焦げた匂いみたいなものを思わせる重さがあった。 「メモって、誰かを脅すためじゃないんですか」 「脅しにしては回りくどい。むしろ、見つけてほしいみたいにも見える」 「見つけてほしい……」 朝陽が繰り返すと、未菜はメモを封筒に入れながら小さくうなずいた。 「この相談室は、変な本も、変な紙も、まず拾う場所だから。朝陽くん、怖がらなくていい。けど、見落としはしないで」 朝陽は返本の山を見やった。静かなはずの箱の中に、まだ何かが隠れている気がしてならない。誰が、何のために、本の隙間へ言葉を忍ばせたのか。答えの輪郭は見えないまま、それでもたしかに、街の夜へとつながっている予感だけが残った。

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