エラベノベル堂

深夜書店 返品本相談室

全年齢

小説ID: cmnepuper000f01nwv9opbg39

4章 / 全10

閉店作業の音がひとつずつ消えていき、相談室だけが書店の奥で息を潜めていた。朝陽は返品本の保管棚の前に立ち、懐中電灯の細い光を背表紙へ滑らせる。 「……あれ?」 いつもなら整然と並ぶはずの棚で、ある一角だけ妙に抜けが目立った。特定のタイトルだけが、まるで指でつまみ取られたみたいに、同じ位置から何度も消えている。 未菜が後ろから覗き込む。 「気づいた?」 「はい。これ、偶然じゃないです」 朝陽は空いた隙間を順に指でなぞった。そこだけ本の重みが偏っている。戻す順番を少し変えただけでは生まれない、読まれ方の癖が棚に残っていた。 「同じ系統ばかりですね。似た内容の本が、まとめて抜かれてる」 「ええ。貸出履歴も見てみた」 未菜が端末を傾ける。画面に並ぶ名前を見て、朝陽は眉を寄せた。 「同じ名前、ですか」 「しかも別の日。返却された本の系統も、棚の並びも一致してる。読み物の流れを装って、内部資料に近づいてるみたい」 朝陽は息を呑んだ。読書のふりをしながら、本の動きを追っている。相談室に届く返品本は、ただ戻ってきたのではない。誰かが意図して道を作っている。 「でも、そんなことをして何の得が……」 「資料に触れたい理由があるんでしょうね」 未菜の声は落ち着いていたが、瞳の奥には警戒が濃く差していた。 朝陽は棚の奥に視線を移した。そこに並ぶ本は、どれも静かだ。けれど静かであること自体が、逆に不自然に思えてくる。 「未菜さん」 「なに?」 「この相談室、ただの返品処理じゃないですね」 未菜は少しだけ口元をゆるめた。 「今さら?」 「いえ、そうじゃなくて……ここ、真相への入口だ」 言い切った瞬間、胸の奥で何かがほどけた。店内のどこかで空調が低く唸り、棚の影が細く揺れる。朝陽はその暗がりを見つめたまま、ゆっくり拳を握った。 誰かが読書の流れを装い、書店の内側へ手を伸ばしている。ならば、その手がどこへ続くのかを辿れるのは、この返品本の相談室しかない。 朝陽は空いた棚を見上げ、静かに息を吸った。 ここからなら、見える気がする。

4章 / 全10

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