外部調査班が到着したのは、空がもっとも白く濁る午後だった。県の防災担当、技術本部の保全課、資料保存室の職員、そして予想していなかった顔ぶれとして、地元紙の記者が一人いた。管理所の玄関に雪を払う音が続き、静まり返っていた建物に久しぶりに人の気配が満ちる。澪は応接室へ資料箱を運び込みながら、自分の集めた断片が、もう自分だけのものではなくなったことを実感していた。 調査はすぐに旧設備の図面照合から始まった。保存室の職員が持ち込んだ原本台帳には、澪たちの保管室から消えていたはずの別紙番号が残っていた。だが対応する本文は欠落している。その代わり、別の綴りに閉じられた工事完了報告の端に、薄く削られた鉛筆の跡が見つかった。光を斜めに当てると、消された文字が浮かぶ。封止継続監視要。報告系統変更。現場保留。 室内の空気が変わった。単なる記録漏れではない。改ざんは事故直後の応急処理だけでなく、その後の監視継続まで隠すために重ねられていたのだ。所長は唇を引き結び、調査班長は無言で写真を撮った。記者のペン先が紙を走る音だけがやけに大きい。 さらに閉鎖区画から戻った点検班が、新たな写真を持ち帰った。旧排水門へ続く点検用の鋼製扉、その内側に、過去の補修日を示す打刻が幾重にも残っている。事故の翌年、その翌年、さらに十年後にも。閉鎖後は立入なしとされていた区域に、繰り返し手が入っていた証拠だった。沼田が低く吐き出す。 知ってたどころじゃない。ずっと面倒を見てたんだ 澪は打刻の列を見つめた。毎年の水位変動は、忘却ではなく管理された沈黙の上に続いていた。事故を埋めた組織は、傷口の存在を知りながら、公には存在しないものとして扱ってきたのだ。だから記録は空白になり、現場の引き継ぎは曖昧な言い回しだけになった。 夕方、応接室の隅で記者が澪に声をかけた。いつから気づいていたのか、と問われ、澪は窓の外を見た。雪雲の下で、湖は朝と変わらず静かだった。 気づいたというより、毎年向こうから合図していたんです そう答えると、自分の声が不思議なくらい落ち着いて聞こえた。 そのとき、対策本部から無線が入る。旧系統周辺の圧力が、日没前なのに再びわずかに動いたという報告だった。例年の時刻ではない。誰かが息をのむ。事故の痕は記憶ではなく、今もそこにある設備そのものなのだと、全員が同時に理解した。澪は机上の資料に手を置いた。真実は掘り当てられた過去ではない。これから社会へ差し出される、現在の問題として、ついに形を持ち始めていた。
雪圧ダム 潜歴調査
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