エラベノベル堂

客席ごとの祝祭曲

全年齢

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7章 / 全10

演奏を終えて舞台袖へ戻った瞬間も、拍手の質がいつもと違うことだけはわかった。大きさではない。波が一度で引かず、場所を変えながら何度も返ってくる。中央から起きた拍手に、少し遅れて二階席が重なり、最後列のほうで誰かが立ち上がった気配がした。澪は息を整えながら、胸の奥に熱いものが溜まっていくのを感じた。うまくいった。その確信は、結果を待つ前からあった。 ロビーに出ると、見知らぬ他校の生徒に声をかけられた。 「後ろで聴いてたんだけど、途中から低音が足元で呼吸してるみたいだった」 別の観客は、右端の席ではクラリネットが遠くの灯りみたいに見えたと言った。感想はどれも少しずつ違っていて、けれど違うまま同じ興奮を帯びていた。澪はそのことがたまらなく嬉しかった。自分たちが目指してきたものは、ちゃんと客席に届いていたのだ。 だが、結果発表の直前、保護者の一人が連盟関係者ともめている姿が目に入った。講評の集計方法について質問したらしい。小さなざわめきが広がり、今年もまた何かあるのではないかという不安が、せっかく静まっていた心を揺らした。 発表は短かった。青葉高校、代表。会場がどよめき、すぐに拍手が起こる。澪は一瞬、意味が理解できなかった。真壁が低く息を吐き、小野寺が目を見開いたまま口元を押さえる。杉本は信じられないものを見るように電光掲示を見つめていた。 代表校の中に、例年なら当然のように名を連ねるはずの強豪が一校、入っていなかった。ざわつきはそのためでもあった。観客席の後方から、 「今年はちゃんと聴いたんだ」 という誰かの声が聞こえ、すぐに別の場所から拍手が重なった。 篠崎は喜びを爆発させるでもなく、ただ深く頭を下げた。その横顔は静かだったが、目だけが少し赤かった。部員たちが取り囲むと、彼はようやく笑った。 「ほらね」 その一言に、澪は喉の奥が詰まった。 勝てるかどうかではなく、何を聴かせるか。その問いを手放さなかった先に、こんな形の返事が待っているとは思わなかった。審査の不透明さが消えたわけではない。たぶん全国へ進んでも、同じような不安は続くのだろう。それでも今日、会場の空気は確かに変わった。結果が出たからではない。結果が出る前から、多くの耳が青葉の音楽を自分の言葉で受け取っていたからだ。 帰りのバスへ向かう通路で、澪は一度だけ振り返った。夕方の光のなかで、ホールの扉がまだ半分開いている。あの中には、正面だけではない無数の席があり、それぞれ違う景色が残っているはずだった。 全国大会へ行ける。その現実より先に、澪の胸を満たしていたのは、自分たちの音楽がようやく会場の広さに追いついたという、確かな手応えだった。

7章 / 全10

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