エラベノベル堂

ぎこちないまま並走中

全年齢

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3章 / 全10

翌朝の空気はまだ少しひんやりしていて、陽は図書館の玄関ホールに入った瞬間、床の光沢に足を取られそうになった。高い天井のせいか、声が少しだけ遠くに響く。受付の向こうで本を整えていた女性が顔を上げた。 「いらっしゃいませ。ご案内しましょうか」 落ち着いた声だった。名札には花村結衣とある。陽は一瞬だけ封筒のことを思い出し、それを胸の奥に押し込めた。 「あの、古い図書室のことで……聞きたいことがあって」 結衣は少しだけ目を細めた。 「古い図書室、ですか。閉鎖されたあそこですね。一般の貸出記録にはもう残っていませんけど、調べるなら資料室のほうが早いです」 思ったよりあっさりした返事だった。陽は拍子抜けしつつも、胸の奥がじわりと熱くなるのを感じた。 「そんなに簡単に入っていいんですか」 「簡単というより、見つけたい理由があるなら止めません。気になる顔をしてますし」 苦笑まじりに言われ、陽は耳の後ろをかいた。 「空白の場所があって。地図にだけ、妙に抜けてるんです」 「空白、ですか」 結衣は少し考えるように視線を落とした。 「その場所が、ただの倉庫だったと聞いたことはありません。昔はもう少し別の役割があったみたいです」 別の役割。その言葉に、陽は息をのんだ。 「別の、役割……?」 「ええ。はっきりとは残っていません。でも、記録を見れば何かわかるかもしれません」 結衣は受付の鍵を手に取り、カウンターの脇へ回った。 「こちらです。資料室は静かなので、驚かないでくださいね」 陽は慌てて後を追う。ホールの明るさが背後へ遠ざかるほど、建物の奥はしんとした気配を増していった。細い通路を抜けるたび、壁の掲示や古い案内板が目に入る。どれも今の図書館より前の時間をそのまま貼りつけたみたいで、空気が少しだけ重い。 「ここ、昔からあるんですね」 「ええ。改装はしていますけど、全部を新しくしたわけじゃないんです」 結衣は振り返らずに言った。 「残っているものほど、案外いろいろ隠しているものです」 その言い方が妙に引っかかる。陽は資料室の扉を見つめた。閉じた扉の向こうに、地図の空白を埋める何かが眠っている気がして、喉の奥が乾いた。 「……やっぱり、ただの倉庫じゃなかったんだ」 独り言のように漏らすと、結衣は小さくうなずいた。 「ええ。少なくとも、そう簡単に片づけられる場所ではありません」 扉の取っ手に結衣の手がかかる。陽はその横で、次に開く光景を息を止めて待った。

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