黒マント同好会が白手袋クラブを恐れる理由は、いつの間にか恐怖そのものより見栄になっていた。影山は会議室のホワイトボードに日時と場所を書きつけ、指先で二度叩いた。 「決定的作戦は、明日の夜だ」 誰も異論を挟まない。むしろ、ここで勝たねば今までの失敗が全部ただの恥になる気がして、会員たちは妙に真剣だった。舞台装置の入れ替え担当、変装担当、予告状担当、紙吹雪担当。役割だけは立派である。問題は、どれも肝心なところで抜けていることだった。 白手袋クラブから届いた予告状は、やけに端正な字で書かれていた。だが読み進めるほど内容が軽く、最後には河川敷で拾った風船の保管についてまで触れている。影山は紙を置き、険しい顔のまま言った。 「巧妙だ。情報を散らして本筋を隠している」 本筋も何も、ただの雑談に見えたが、誰も言わない。相手もこちらも、些細なことほど恐ろしく見える段階に入っていた。 当日、両者は同じ地域センターの催し場へ向かった。扉の向こうでは、黒マント同好会が密かに看板を裏返し、白手袋クラブが照明を少し暗くしていた。そのはずだった。だが入れ替えた舞台装置は互いに似すぎており、変装は受付で身分証を求められた時点でほころび、紙吹雪は空調に吸われてひとかたまりになった。 「来たぞ」 「いや、もう見えている」 「見えているのが罠だ」 そんな声が飛び交ううちに、資料の束は床へ散らばり、誰かが拾おうとすれば別の誰かが自分の作戦書だと勘違いして奪い返した。黒の会員が白の名札をつけ、白の会員が黒のマントを羽織ったまま行き場を失う。やがて会場の外では、地域の子ども会が用意した季節祭りの飾り付けと混ざり合い、事情を知らない人々の目には、少し派手な余興にしか見えなくなった。 拍手まで起こった。 その音に、影山は膝をついた。白手袋クラブの代表も同じように天を仰ぐ。作戦は成功どころか、拠点の所在も帳簿の置き場所も、互いの手でばらばらになってしまったのである。戻る部屋はなく、残ったのは紙くずと、妙にすっきりした顔だけだった。 「お前たちも、俺たちと同じだったのか」 白い手袋の代表が、少し笑いながら言った。 「そっちこそ。立派そうに見えて、かなり抜けてる」 その言葉で、場の空気が変わった。憎らしさより、妙な親近感が勝ったのである。張り合っていた相手が、自分と同じくらい不器用で、しかも本気だったと知った瞬間、人はどういうわけか肩の力が抜ける。 だったら争うより、合同でやったほうがよくないか。誰かがそう漏らし、誰も強く否定しなかった。 こうして、黒と白を合わせた新しい結社が静かに生まれた。名前だけは少しだけ立派だったが、最初の会議で決まったのは世界征服ではなく、次のおやつである。 「甘いのとしょっぱいの、どっちにする」 「両方でいいだろ」 「いや、予算が足りない」 結局また揉め始める。だが今度は、なぜか少し楽しそうだった。
黒マント同好会対白手袋クラブ
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