「それ、そっちの荷物じゃないですか」 深夜の河川敷は、昼間の喧噪が嘘みたいに静かだった。水の匂いに混じって、積み上がったコンテナの錆びた匂いが鼻を刺す。悠人は懐中電灯の明かりを揺らしながら、目の前の箱に貼られた札を見た。夜灯会回収用、確かにそう書いてある。だが同時に、反対側から飛び出してきた黒鍵団の男も、同じ箱を自分たちの搬送物だと信じて疑っていないらしかった。 「違う、これは我々が先に確保した!」 「いや、こちらの識別票が付いている!」 双方の先頭が、ほとんど同時に胸を張る。威勢だけは立派なのに、足元は砂利に取られてやたら危うい。悠人はコンテナの側面を見て、思わず目を細めた。札はどちらの組織のものにも見えるが、よく見ると上から貼り直した跡だらけで、さらに古い伝票が何枚もぶら下がっている。 「開ければわかる!」 誰かが叫んだ。 「待て、乱暴はするな! 中身は重要物資だ!」 その重要物資が何なのか、悠人は期待していなかった。蓋が少しだけ持ち上がり、隙間から覗いたのは、黄ばんだ古い書類の束と、見たことのある缶飲料だった。しかも缶の底には、賞味期限が近いどころか、見るからに急いで飲まなければならない雰囲気がある。 「……書類?」 「飲み物?」 夜灯会側が顔をしかめる。 黒鍵団側も同じ顔をした。 「待て、これはうちの機密資料ではないのか」 「いや、こっちは補給品のはずだぞ」 悠人は、古びた請求書の端に書かれた品目を見た。保管場所の移し替え、棚卸しの控え、支払い待ちの伝票。どれも妙に実務的で、秘密結社のそれというより、倉庫整理の途中で見失った雑務の山だった。 「……役に立たないですね」 思わず漏らすと、近くにいた先輩が歯噛みした。 「役に立つかどうかは問題じゃない。向こうが欲しがるなら、こっちが押さえる価値がある」 「でも、これ、賞味期限が」 「言うな」 すると向こうの幹部も同じように眉を吊り上げた。 「こちらはこれでも必要だ。古い書類でも、相手の手に渡れば意味がある!」 悠人は、どちらの言い分にも説得力がないことに頭を抱えた。中身はどちらにとってもほとんど使い道がない。なのに、引き下がった方が負けた気がする。そんな薄い体面だけで、両陣営はコンテナを挟んでにらみ合いを続けていた。 「交換で手を打とう」 「そちらが先に札を貼り直したのでは?」 「黙れ、見間違いだ」 缶飲料の一つが、誰かの手で転がって砂利の上を小さく鳴った。悠人はそれを見て、今さらながら気づく。勝負の中身が何であれ、ここにいる全員がいちばん執着しているのは、箱の中身ではなく、引くに引けなくなった自分たちの顔なのだと。 「相沢、こっちの札を確認しろ」 「はい……でも、これ、本当にうちの物資ですか?」 返事は返ってこない。代わりに、黒鍵団の幹部が冷たく鼻を鳴らした。 「我々のだ」 夜灯会の幹部も負けずに言い返す。 「いや、夜灯会のだ」 悠人はため息をのみ込み、再び懐中電灯をコンテナの表面へ向けた。書類と缶飲料の影が、揺れる白い光の中でやけに滑稽に見えた。
黒マント同好会対白手袋クラブ
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