当日、黒マント同好会と白手袋クラブは、同じ地域センターの催し場に集まった。お互いが同じ場所を狙うと知った時点で、すでに勝負は半分終わっていたのかもしれない。だが両者は、最後に笑うのは自分たちだと信じて疑わなかった。 黒側の作戦は、舞台装置の入れ替え、偽の予告状、目くらまし用の紙吹雪、そして変装による潜入だった。白側も負けていない。看板の差し替え、照明の調整、入口の誘導札、そしてやたら丁寧に折られた招待状で、相手を惑わせるつもりだった。どれも大作とは言いがたい。だが本人たちは、これで歴史が動くと本気で思っている。 開演十五分前、まず紙吹雪が早くも飛んだ。ところが空調が予想外に強く、白側が用意した白い紙片は黒い舞台幕の裏へ吸い込まれ、黒側の隠し看板の文字をうっかり浮かび上がらせてしまう。続いて黒側の変装係が受付へ向かったが、白側の名簿と見比べられた結果、なぜか地域祭りの手伝いだと勘違いされ、腕章を渡されてしまった。 「おい、もう入ってるぞ」 「違う、あれは敵の目を欺くための演技だ」 影山が低い声でうなずくと、会員たちは妙に納得した。白手袋クラブの代表もまた、黒マント同好会の会員が運ぶ段ボールを見て震え上がる。あれは雑貨に見せかけた装置だ、いや、そう見せた本物の装置だ、と勝手に話が膨らみ、場はどんどん大騒ぎになった。 だが最悪だったのは、両者の仕掛けが複雑にかみ合ったことだった。黒側が裏返した舞台看板を、白側がさらに別方向へ差し替えたせいで、観客席に向くはずの照明が控え室を照らし出す。そこへ紙吹雪が舞い込み、積み上げた作戦資料の束に降りかかって、重要な図面もメモも見分けがつかなくなった。誰かが拾えば誰かが奪い、誰かが奪えば別の誰かが自分のものだと主張する。気づけば、双方の隠れ家の正体も、次の配置図も、全部自分たちの手で台無しになっていた。 「待て、落ち着け」 「落ち着いたら負けだ」 「もう負けているのでは」 そんな声が飛び交う中、会場の外では事情を知らない近所の人たちが、季節イベントの余興だと思って拍手を始めた。子どもは紙吹雪を追いかけ、大人は妙に本格的な掛け声に感心している。誰も黒マントも白手袋も、脅威として見ていない。 夜が更けたころ、両組織は拠点を失っていた。片方の倉庫は看板の差し替えで貸し出し先を見失い、もう片方の会議室は資料の散乱で足の踏み場もない。資金は舞台費に消え、名誉は拍手とともにどこかへ流れた。事実上の共倒れである。 それでも、散らばった紙の上に立ち尽くす彼らの顔は、思ったより暗くなかった。同じくらい不器用で、同じくらい見栄っ張りで、同じくらい本気だったのだと、今さら分かってしまったからだ。 「……お前たち、案外、嫌いじゃないな」 黒の誰かがぽつりと言うと、白の誰かが苦笑した。 「こっちの台詞だ。敵としては面倒だったが、仲間ならまだマシだろう」 その一言で、空気がやわらいだ。争うより、合同でやったほうが面白い。誰からともなくそんな声が出て、異論はあまり上がらなかった。 こうして、黒と白はひとつの新しい秘密結社になった。名前だけは少し立派になったが、最初の会議で決まった議題は世界征服ではない。 「次のおやつ、甘いのとしょっぱいの、どっちにする」 「両方にしたい」 「予算が足りない」 結局そこでも揉める。だが今度の揉め方は、少しだけ楽しそうだった。
黒マント同好会対白手袋クラブ
全年齢小説ID: cmnfenubx004501ql7a42ja5h
