同じ日時、同じ場所。黒マント同好会と白手袋クラブは、互いにそれを知らぬまま、地域センターの催し場へと集結していた。決定的作戦、という響きだけは立派だったが、実際に準備されたのは舞台装置の入れ替え、変装、偽の予告状、目くらまし用の紙吹雪といった、どれも小粒で妙に手間のかかった仕掛けばかりである。だが両者は本気だった。本気だからこそ、失敗の匂いに気づかない。 先に動いたのは黒マント同好会だった。看板を裏返し、舞台袖に隠した資料を確認し、紙吹雪の箱を抱えて受付をすり抜ける。ところが、白手袋クラブも同じように看板の位置を変えていたため、出入口の案内はすでに別の方向を向いていた。両者は互いの細工を相手の策略だと勘違いし、必要以上に警戒を強める。変装した会員が名札を見失い、控え室で立ち尽くし、差し出されたお茶を受け取るころには、すでに誰が敵で誰が味方か分からなくなっていた。 さらに最悪だったのは、紙吹雪だった。黒側が目くらましのために放った白い紙片は、白側が用意した照明の風に乗って渦を巻き、舞台の上も下も真っ白に染めていく。その隙に白手袋クラブが看板を差し替え、黒マント同好会がそれをまた戻そうとして、今度は作戦資料を入れた箱ごと取り違えた。結果、隠れ家の所在を示す紙束も、当日の動線も、誰かが大事に抱えていた予備の鍵も、みな自分たちの手で散らばってしまう。 「落ち着け、これは敵の誘いだ」 影山が低く言ったが、その声も紙吹雪に吸われる。白手袋クラブの代表もまた、相手の動きを壮大な陽動と信じ込み、慌てて次の手を打った。だがその次の手こそが、さらに場をややこしくする。催し場の入口に掲げられた案内札が片方ずつ入れ替わり、控え室と倉庫と非常口の区別が曖昧になり、会員たちは互いの作戦書を自分のものだと主張して譲らない。誰もが真剣で、誰もが少しずつ間違っていた。 その一方で、会場の外では事情を知らない近所の人々が集まり始めていた。子ども会の季節イベントと勘違いしたらしく、拍手まで起きる。派手に散る紙吹雪、やたら気合いの入った掛け声、妙に動きのそろった黒と白の集団。脅威どころか、立派な余興に見えたのだろう。見物客は楽しそうに笑い、写真を撮り、最後には満足げに帰っていく。 そして、あっけない結末が来た。会場の裏手に隠していたはずの備品は人の流れに押されて表へ出てしまい、作戦資料は散らばり、どの箱にもどの書類にも所属の印がついていない。拠点の正体は隠しきれず、むしろ自分たちの混乱で丸裸にされた。夜が深まるころ、黒マント同好会も白手袋クラブも、資金も名誉も居場所も失っていた。 だが、瓦礫のように積もった紙の前で向かい合ったとき、奇妙なものが残った。憎しみではなく、妙な親近感だった。相手も自分たちと同じくらい不器用で、同じくらい見栄っ張りで、同じくらい本気だったのだと、今さら分かってしまったからである。 「争うより、合同でやったほうが楽じゃないか」 誰かがぽつりと漏らす。反対する声は、思ったほど強くない。こうして黒と白はひとつになり、新しい秘密結社として再出発することになった。黒白連盟とでも呼ぶべきその集まりは、名前だけは少しだけ立派だったが、最初の会議で決まった議題は、世界征服ではない。 「次のおやつ、甘いのとしょっぱいの、どっちにする」 「両方にしたい」 「予算が足りない」 結局また揉め始める。けれど今度の争いは、なぜだか少しだけ楽しそうだった。
黒マント同好会対白手袋クラブ
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