エラベノベル堂

黒マント同好会対白手袋クラブ

全年齢

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8章 / 全10

「相沢、外へ出るぞ」 夜明け前の薄い光が、旧商業施設の裏手にある狭い通路の汚れをぼんやり浮かべていた。悠人は一晩中鳴りやまなかった笛の音をまだ耳の奥に残したまま、重い足を動かした。玄関側の喧騒は遠のいたのに、誰もが肩で息をしている。 「ようやく撤収ですか」 「撤収ではない。最後に一太刀だ」 幹部はひどく乾いた声で言った。夜灯会の幹部たちは、疲れ切っているくせに、妙なところだけは元気だった。少し離れたところでは黒鍵団の面々も同じように顔をしかめ、誰かが 「今こそ決める」 と呟いている。 「いや、もう無理ですよ」 悠人がそう言うと、両方の幹部から同時に睨まれた。 「何を弱気な」 「ここで引いたら、今夜の意味がない」 意味は、すでにかなり失われている気がした。だが、彼らは引けないらしい。夜灯会の幹部は裏口から回り込み、黒鍵団の幹部は駐車場側へ抜ける、と勝手に別行動を始めた。 「相沢、お前は右だ」 「いや、左だ」 「どちらでもいい。先に相手を見つけろ」 命令だけが立派で、道順はひどく曖昧だった。 悠人は裏口の鉄扉を押し開けた。冷えた空気が頬を撫でる。出たはずなのに、目の前には駐車場へ続く誘導路が伸びている。白線とコーンが並ぶその先で、警備員が腕を組み、こちらを見ていた。 「おはようございます。そちらは一般車両の誘導路です」 「一般車両……?」 「はい。整列してください」 言われるまま、悠人は足を止めた。背後から来た夜灯会の幹部も、少し遅れて迷い込み、同じ誘導路に並ばされる。さらに、角を間違えた黒鍵団の幹部まで現れて、気まずそうに立ち尽くした。 「待て、なぜ貴様がそこにいる」 「なぜって、出たらここだった」 「方向音痴か」 「そっちこそだろう」 言い合いは始まったが、警備員の一瞥でぴたりと止まる。 「お静かに。順番にお願いします」 その一言で、両組織の幹部はそろって前を向いた。誰もが不本意そうなのに、白線の上では妙に素直だった。悠人も、気づけばその列の端に立っている。 「相沢、何をしている」 「整列してます」 「敵の前だぞ」 「でも、指示ですから」 幹部は口を開きかけて、結局閉じた。警備員が点呼表をめくり、裏口から漏れてくる朝の光が、全員の疲れた顔を等しく照らす。 「名前ではなく、人数だけ確認します。次、二列目の方」 悠人は、夜灯会と黒鍵団が同じように行儀よく並ばされていくのを見て、もう何も言えなくなった。最後に一太刀を狙ったはずの幹部たちは、駐車場の誘導路でただ順番を待つ人たちになっていた。 そして、その列はなぜか、誰ひとり抜け出せないまま、静かに進み始めた。

8章 / 全10

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