エラベノベル堂

校門前の長椅子

全年齢

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4章 / 全10

それから数日しても、おじいさんたちは変わらず校門前に集まった。けれど、もう最初のころのように通りすがる生徒を黙って見つめるだけではなかった。朝の風が強ければ、ひとりが帽子を押さえ、別のひとりが 「今日は旗がよく鳴る」 とうれしそうにつぶやく。誰かが遅刻しそうに走ってくれば、全員が同じ角度で体をよけ、まるで昔からその役目を知っていたかのように道をあけた。見慣れないのに、妙に手慣れている。そのぎこちなさと息の合い方が、かえって目を離しにくかった。 昼休みになると、僕たちは少しずつ彼らの輪に近づいた。最初は名前を聞くだけでも手いっぱいだったが、話を重ねるうちに、それぞれに小さな癖があるのが分かってきた。ひとりは甘い飴を必ず三つ持っていて、ひとりは古い時刻表を折りたたんでいる。別のひとりは、ベンチの木目を見つめながら、昔ここで転んだ子どもの話をする。そのたびに、ほかの誰かがうなずいて、同じ場面を思い出すように目を細めた。 やがて、彼らが口をそろえていた昔の広場の話が、少しずつ形を持ちはじめた。そこには夏になると露店が並び、夕方には紙風船がいくつも空へ上がったという。今の校舎の敷地は、その一角を削って建てられたらしい。広場がなくなってから、集まる理由も場所も失われた。それでも、年を取った彼らは不思議なくらい正確に、かつての待ち合わせの感覚を覚えていた。朝になると自然に足が向き、同じ時間に同じ方角を見てしまうのだと、ひとりが照れたように笑った。 その説明を聞いても、まだどこか腑に落ちなかった。なぜなら、彼らはただ昔を懐かしんでいるだけではない顔をしていたからだ。誰かが門の向こうに目をやると、別の誰かがすぐに立ち上がる。先生が近づけば、三人が同時に話題を変える。まるで、この場所に長く隠れていた何かを、今もそっと守っているようだった。 そんなある朝、校門前に並んだおじいさんたちの人数が、いつもより多かった。ひとり、またひとりと増え、気づけばベンチの周りに小さな円ができている。先頭にいたおじいさんが、何かの合図のように手を打つと、全員が同じ向きに顔をそろえた。その先には、体育祭の準備で運ばれてきた古い木枠の看板があった。そこに書かれた地名を見た瞬間、彼らはまるで時間をまたいだみたいに、同じ顔で笑った。 その笑い声は、思っていたよりずっと明るかった。怖さを含んだ沈黙ではなく、長いあいだ失くしていたものに触れたときの、ほっとした響きだった。先生も生徒も、しばらく言葉を忘れて見守るしかなかった。やがてひとりの生徒が、ぽつりと 「ここ、本当に昔は広場だったんですね」 とつぶやくと、おじいさんたちはそろってうなずいた。 「だから来るんだよ」 そう言った声は一つではなかった。けれど不思議と重なって聞こえた。 それから校門前は、少しずつ学校の一部になっていった。朝の見守りに加わるおじいさんが増え、登校する生徒に 「靴ひもがほどけてるぞ」 と声をかけるのが日課になった。文化祭の話が出れば、昔の祭りを知る人たちとして呼ばれ、飾りの色や並べ方にまで口を出す。最初は顔をしかめていた先生たちも、今では本気で頼りにしている。 そしてある朝、ベンチの端に座っていた一人が、いつものように空を見上げて言った。 「ここは、待つ場所じゃなくなったな」 誰も答えなかった。けれど、みんなが同時に笑った。校門の前には、昔の広場の影と今の学校の朝が、重なるように並んでいた。

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