校門前の騒ぎが、ようやくひとつの形に見えはじめたのは、古参職員が名乗り出てからだった。事務室で黙って書類をさばくあの男が、昔の広場で毎夏走り回っていた子どもの一人だと知れた瞬間、先生たちの眉間のしわがいっせいに深くなった。けれど、おじいさんたちは責めるどころか、まるで昔の仲間を見つけたように目を細めた。 「やっぱり、お前だったか」 「気づかないふりが上手になっただけだ」 そんなやり取りが、校門の前で平然と交わされる。生徒たちはぽかんとしながらも、もう怖がるより先に笑っていた。あの不気味な沈黙は、最初から脅かすためのものではなかったのだ。消えてしまった広場の輪郭を、毎朝ここで確かめ合っていただけだった。 だが、まだ話は終わらない。古参職員が引っ張り出した古い記録の束の中から、今年の学園祭の配置図が出てきたのだ。しかも、校門前のベンチがある場所に、やけに丁寧な赤丸が付いている。誰が見ても最近書き足された印だった。 「これ、誰が?」 生徒会長が問うと、古参職員は観念したように息を吐いた。 「君たちが来る前から、少しずつ書いていた。広場があったことを、行事の中に戻したかったんだ」 そこでようやく、すべてがつながった。おじいさんたちが校門前に集まったのは偶然ではない。学校に眠っていた昔の道筋、石の位置、集まり方を、身体が覚えていたのだ。何年も前に消えたはずの広場は、図面の上ではなく、人の癖として残っていた。だから彼らは同じ時間に来て、同じ向きに座り、同じ合図でうなずき合っていた。 もっとも、その合図が妙に大げさなのが、怖さを増していた原因でもある。ひとりが指を二度鳴らせば全員が立つ。ひとりが空を見れば全員が見上げる。その揃い方は、秘密結社じみていて、生徒たちの間では勝手に暗号だの地下組織だのと噂されていた。けれど本当は、長い年月のあいだに自然と身についた、古い広場の作法にすぎなかった。 それでも、ひとつだけ説明のつかないことがあった。なぜ今になって、こんなにもはっきりと戻ってきたのか。古参職員はしばらく黙っていたが、やがて校門の向こうに建つ新しい時計塔を見上げて言った。 「ここが、また人を呼ぶ時期なんだよ」 その意味は、翌週にはっきりした。学園祭の準備が本格化すると、おじいさんたちは当然のように中心へ入り込み、飾り付けから動線の確認まで仕切りはじめた。最初は先生たちも戸惑っていたが、彼らの手際があまりに良いので、気づけば誰も止められない。旗の色は昔の祭りと同じ配列になり、提灯は校門前の木に並び、広場だった頃の名残を再現するように導線が組み直された。 すると不思議なことに、見物客が増えた。卒業生が立ち寄り、近所の人が足を止め、知らないはずの地域の人まで 「懐かしい気がする」 と笑って入ってくる。おじいさんたちはそれを見て、ひとり、またひとりと肩の力を抜いた。広場はもう失われたのではなく、呼び戻されただけだったのだ。 学園祭当日、校門前は朝からにぎやかだった。生徒たちはおじいさんたちに混ざって最終確認をし、遅刻しそうな後輩を先頭の人がやさしく送り出す。古参職員はいつの間にか太鼓を預かり、先生までもが笑いながら呼び止められている。 そして開会の合図が鳴った瞬間、あの不気味だったベンチに座っていた人々が、そろって立ち上がった。 「さあ、始めるぞ」 その声に、校門前の全員が返事をした。見知らぬおじいさんたちは、もう見知らぬ存在ではなかった。むしろこの町の朝を支えていたのは、自分たちより少し先に、時間の置き場所を知っていた彼らだったのだ。 最初の恐怖は、最後にはやけにあたたかい騒がしさに変わっていた。校門前の名物は、こうしてただの不思議な風景から、誰もが立ち寄る笑い声の広場へと変わった。
校門前の長椅子
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