エラベノベル堂

金属スライム、森を守る

全年齢

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3章 / 全10

小屋に通うようになった旅人は、名をセリアと言った。足の痛みが引くまでここに滞在するらしく、俺は彼女の周囲で小さな役目を見つけていった。火を起こす前に乾いた枝を集め、雨の匂いが強い日は戸口の前に石を並べ、夜には外で鳴く獣を遠ざける。俺が姿を見せなくても、セリアはもう驚かなかった。むしろ、風もないのに揺れる葉を見ては、ふっと笑うようになった。 その笑い方は、俺にとって不思議だった。警戒でも同情でもなく、当たり前のようにそこにある声だったからだ。 ある朝、彼女は古い地図を広げ、森の奥へ続く細い道を指でなぞった。そこには、廃れた水路と小さな集落の跡が描かれている。道中の水場がひとつだけ、砂に埋もれていると書き込みがあった。 セリアは唇を噛んだ。 「そこを越えたいんだけど、ひとりだと少し不安なの」 俺は戸口の影から、銀の体をわずかに震わせた。行く。そう伝えたつもりだった。彼女はすぐにそれを理解したらしく、地図の端を折り返して持ち上げた。 「じゃあ、一緒に来て」 森の奥は、前よりも危うかった。朽ちた木橋は半ば崩れ、ぬかるみの底から冷たい気配がのぞいている。だが、俺にはそれがかえって得意な場所だった。細い板の上では丸く縮んで重心を低くし、危ないと感じた瞬間には反射的に横へ滑る。セリアが足を取られそうになれば、先回りして沈む場所を示し、彼女の杖の先を安全な石へ導く。 やがて水路跡に着くと、砂に埋もれた石蓋の下から、かすかな水音がした。塞がれていた流れを少しだけ開けば、近くの草が生気を取り戻すはずだ。だが石蓋は重い。セリアが両手で押しても、びくともしなかった。 そこで俺は、体をできるだけ平たくして石の隙間へ入り込んだ。表面に沿って滑り、内部の欠けた場所を見つける。そこへ勢いをつけて押し込むと、石がわずかに浮いた。セリアが目を見張る。 「今の、どうやったの」 返事はできない。だが、俺がもう一度押すと、石はゆっくり傾き、古い水路が息を吹き返した。澄んだ水が石の下から流れ出し、乾ききっていた苔を濡らす。草が揺れ、土の色が変わった。 そのときだった。森の向こうで、複数の足音が止まる気配がした。人の気配だ。しかも、慌ただしい。セリアが身を強ばらせ、俺も反射で水路の陰に沈む。次の瞬間、遠くから叫び声が聞こえた。 「こっちだ、道が開いてる」 誰かがこの場所を見つけたらしい。だが、その声には喜びより先に、狙うような鋭さがあった。セリアが息を呑む。 「まずい、探索者たちだ。森を荒らす連中がいる」 俺は水面に映る幾つもの影を見た。彼らは水場を手掛かりに、さらに奥へ入ってくるつもりなのだろう。そこで見つかれば、この静かな森は壊される。逃げるだけなら簡単だ。だが、今は違う。ここは、俺が少しずつ覚えた場所で、セリアが帰ってくる場所でもある。 俺は石の下から飛び出し、流れの角度を変えるように体を転がした。小さな水しぶきが上がり、ぬかるみが広がる。足音が乱れた。セリアはその隙に荷を背負い直し、俺の示した細道へ駆ける。 その背後で、森がざわめいた。今までただ潜んでいた俺に、初めて誰かが追いついてくる。珍しいだけの存在では終わらない。そう思った瞬間、金属の体の奥で、冷たい光がひとつ、強く脈打った。

3章 / 全10

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