泉のほとりで木の実を割っていると、いつの間にか陽の高さが変わっていた。木々の影は長く伸び、森の奥にある小道へ、淡い光が斜めに差し込んでいる。俺はその道を、なんとなく辿っていた。道なんて言っても、獣や人が踏み固めた細い筋だ。けれど土が柔らかく、ところどころに折れた枝が転がっているから、ここを通る者がいるのはわかる。 ぽん、と跳ねて進むたび、金属みたいな身体が葉の光をはね返す。目立つ。やっぱり目立つ。そう思って、できるだけ木陰を選んだ、そのときだった。 「ひっ」 小道の先で、少女が息を呑んだ。 俺も固まる。いや、固まるというより、思わず跳ねるのをやめた。少女は十代前半くらいだろうか。膝まである草を踏みしめ、両手で大きな布袋を抱えている。顔色は青ざめ、俺を見たまま一歩下がった。 「な、なに……? 魔物……?」 声が震えている。そりゃそうだ。森の小道で、金属色の丸い塊がじっとしていたら、俺でも怖い。 どうしよう。逃げるべきか。だが、俺が慌てて跳ねれば、もっと怖がらせる。 だから、できるだけ小さく、そっと横へ跳んだ。枝の折れた方へ、道の脇へ。すると少女は、びくりと肩を震わせたまま、俺の動きを目で追った。 「もしかして……道、教えてるの?」 当たりだ。たぶん。 俺はもう一度、道の先へ、次に木の根元へ、小さく跳ねてみせた。すると少女の目が、少しだけ落ち着く。 「道しるべ、ってこと?」 言葉の代わりに、俺は同じ方向へ三度跳ねた。 少女は唇をきゅっと結び、それから袋から木の枝を一本取り出した。 「わかった。私、結奈。迷ってるの。こっち、で合ってるのか知らないけど……一緒に行く?」 一緒に、という言葉に、胸の奥がじんわりした。もちろん胸なんて本当はないのに、変な感覚だった。 結奈はしゃがみ込み、枝で土をなぞる。 「ここに印をつけるね。戻ってもわかるように」 その枝先が、くるりと丸を描いた。俺はそれを見て、少し離れた場所の土をぽんと弾いた。すると小石が転がり、丸のそばに止まる。 「え、今の、合図?」 俺はもう一度、軽く跳ねた。 「ふふ……変なの。でも、ありがと」 結奈の声から、最初の怯えが少し消えていた。彼女は枝で木の根元にもうひとつ印を足し、俺が示した方向へ歩き出す。俺もその横を、小さく跳ねながら進んだ。 「ねえ、君。名前あるの?」 当然、ない。けれど答えられないのがもどかしい。 結奈は返事を待たず、少しだけ笑った。 「そっか。じゃあ、まだ内緒ってことにしておく」 森の風が葉を揺らし、枝についた光が細く落ちる。俺はその光の中で、彼女のつける印を見失わないように、何度も跳ねた。言葉はなくても、進む方向なら分かち合える。 ただの迷子同士かもしれない。 それでも、ひとりで森に浮かんでいた時より、ずっと前に進める気がした。
金属スライム、森を守る
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