エラベノベル堂

金属スライム、森を守る

全年齢

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4章 / 全10

探索者たちの声は、木々の間で不快に反響した。数は四。先頭の男は長い棒で地面を叩き、足場を確かめながら進んでくる。後ろの二人は獣除けの鈴をぶら下げ、最後の一人だけがやけに静かだった。静かな者ほど危ない。俺はいつの間にか、その理屈を森で覚えていた。 セリアは息を殺し、俺の示した脇道へ身を滑らせた。古い水路は浅く、だが足を取られれば遅れる。俺は先に走り、ぬかるみの縁を踏んで小さな穴を見つけると、そこへ体を押し込んだ。金属の体は石の欠けに吸い寄せられるように収まり、次の瞬間には反対側へ抜ける。俺のあとを追った探索者の棒先が空を叩き、苛立った声が上がった。 「いたぞ、あの銀色のやつだ」 銀色。やはり珍しい、でしかないのだろう。だが今はそれでいい。俺はわざと目立つ場所へ転がり、川べりの石を跳ねさせた。小さな飛沫が鈴の紐に絡み、ひとりの足元を滑らせる。男が転び、苛立ちの罵声が森に散った。セリアはその隙に水路の上流へ回り込み、古い樹根の陰へ身を隠す。俺は彼女が逃げ切るまで、追手の視線を引きつければいい。 だが、静かな男が違った。彼は鈴を外し、音も立てずにこちらへ近づいてきた。手には網のような道具がある。まっすぐ狙ってくる気配に、体の奥で冷たい警鐘が鳴る。俺は反射で横へ滑った。次の瞬間、網が地面を打ち、乾いた音がした。もし一拍遅れていれば、絡め取られていた。 背筋のないはずの身体が、怖気に似た震えを起こす。それでも逃げるだけでは終わらないと、なぜか今ははっきり思えた。俺は水たまりに身を沈めるふりをして、一気に石の裏へ回る。そこには、セリアがあらかじめ置いていった折れ枝があった。彼女が俺のために、合図代わりに残したものだ。俺はその枝を押し出し、隠れていた小穴へ差し込む。すると乾いた地面の層が崩れ、探索者の足元に細い陥没が走った。 「うわっ」 大きくはない。だが、十分だった。先頭の男が態勢を崩し、後ろの二人がぶつかる。静かな男だけが踏みとどまったが、その視線が初めて揺れた。見えない何かに足元を奪われた、と感じたのだろう。 そのとき、森の奥から低い咆哮が響いた。水場の匂いに引かれたのか、獣じみた魔物が一頭、茂みを割って現れた。探索者たちの顔色が変わる。追う側だった者たちが、今度は追われる番になった。俺はわざと魔物の視界に石を投げつけ、注意をこちらへ向ける。鈴の音が消え、叫び声が遠のいた。 セリアが樹根の陰から飛び出し、俺を見つけて叫んだ。 「こっち、早く」 俺は彼女の足元へ滑り込み、そのまま肩代わりするように荷の紐を持ち上げる。もちろん持てるわけではない。だが、彼女の歩調に合わせて紐を引くことはできた。二人で走るように森を抜け、古い小屋の屋根が見えたところで、ようやく背後の気配が途切れた。 夜になってから、セリアは戸口の前に座り、疲れた息を整えた。炎の揺らめきの中で、彼女はしばらく黙っていたが、やがて小さく笑った。 「あなた、やっぱりただの不思議な生き物じゃないね」 俺は卓の隅で丸くなった。皮肉にも、珍しいと言われ続けたことが、今は少しだけ誇らしい。彼女は続けて、震える指で小さな包みを差し出した。干した木の実と、森で採れた甘い根だ。俺が少しずつ食べていたものを覚えていたらしい。 それを受け取った瞬間、体の内側にじんわりと温かさが広がった。生き延びるために覚えたことが、誰かを守るためにも使える。隠れるための金属ではなく、つなぐための金属。そんなふうに思えた。 翌朝、森の縁に新しい標識が立てられた。セリアが街へ持ち帰るために、簡単な目印をつけたのだ。水場までの安全な道、ぬかるみ、崩れやすい木橋。俺はそのひとつひとつの上を転がって確かめ、彼女に伝える役目を担った。 森と街のあいだを行き来する、小さな守り手。人でも魔物でもない俺に、ようやく居場所ができた。朝露の光の中で、銀灰色の体は静かに輝き、俺は迷わず前へ進んだ。

4章 / 全10

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