エラベノベル堂

金属スライム、森を守る

全年齢

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4章 / 全10

結奈は小道の先で足を止めた。木々の切れ間に、古びた祠が半分だけ沈むように建っていたからだ。苔むした石段は崩れ、注連縄も色を失っている。けれど、そこだけ空気が少し冷たい。 「……ここ、なんだろ」 結奈の声が、さっきまでより小さい。 俺は先に跳ねて近づき、祠の基礎石を軽く叩いた。返ってくる音がやけに澄んでいる。中は空洞がある。そう思って、縁へ回り込み、光を反射しやすい角度を探した。 「見える?」 結奈がしゃがみ込む。俺は一度だけ強く跳ね、石の隙間へ光を落とした。薄暗い奥で、何かが鈍く光る。 「なに、あれ……」 結奈は息を呑んだ。祠の奥壁に、古い標章が刻まれていた。人の手で削られたような線はかすれているのに、輪の形と枝のような印だけは、まだはっきり残っている。 俺はもう一度跳ねて、標章の下へ移動した。すると、結奈は少しだけ顔を上げる。 「これ、魔物の印? それとも……」 彼女の言葉が途中で止まる。恐れているのは目の前の彫り跡じゃない。そこに込められた、見えない昔話だ。 「森に住む魔物って、人里を襲うって聞いたの」 結奈はぽつりと打ち明けた。目を伏せたまま、布袋をぎゅっと抱きしめる。 「大人たちは、近づくなって言うし。村でも、森は危ないって……でも、ほんとかな。あたし、わかんなくなってきた」 俺は標章の前で止まり、できるだけゆっくり跳ねた。祠の石を一度、二度。次に、自分と結奈の間を往復する。 違う。少なくとも、全部が敵じゃない。 そんなつもりで動くと、結奈はじっと見つめ返してきた。 「……君も、そう思うの?」 答えの代わりに、俺は標章の輪の内側へ跳んだ。すると、石の表面に残った雨水がわずかに揺れ、光を受けて線を浮かび上がらせる。輪は守りを示すようでもあり、誰かを外へ追い出す門のようでもあった。 結奈の表情が変わる。 「誤解……してたのかな。森と人、どっちかが悪いって話じゃないのかも」 祠の奥で、古い印が静かに光を返す。俺はそこに留まり、まだ見えぬ昔の約束を前に、小さく跳ねた。

4章 / 全10

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