エラベノベル堂

金属スライム、森を守る

全年齢

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5章 / 全10

探索者たちを森の奥へ追い返したあとも、静けさはすぐには戻らなかった。折れた枝、踏み荒らされた草、逃げた魔物の残した獣臭。小屋の周りには、嵐の爪痕みたいな気配がまだ残っていた。 俺はその匂いの中を転がりながら、何度も周囲を確かめた。追手は去ったはずなのに、体の奥の警戒はなかなか緩まない。セリアも同じだったらしい。戸口に腰を下ろしたまま、彼女は長く息を吐いた。 「もう、大丈夫かな」 声はかすれていたが、そこで初めて、恐怖よりも疲れのほうが強いのだとわかった。俺は彼女の足元へ寄り、そっと体を寄せた。金属の冷たさが、彼女の靴越しに伝わったはずだ。それでも彼女は逃げなかった。代わりに、指先で俺の表面をひと撫でした。 「助かったよ。ほんとに」 その一言が、戦いの残響をふっとほどいた。 翌日になると、森に散っていた小さな生き物たちが少しずつ戻ってきた。木の幹に隠れていた鳥、草むらに潜っていた兎じみた獣、浅い泉へ喉を潤しに来る鹿のような影。彼らは俺を見て、以前ほど怯えなかった。恐ろしい金属の塊ではなく、あの日の騒動のあとも動いている小さな何か。そんなふうに受け取られている気がした。 セリアは森の入口まで行き、街へ戻る準備を始めた。だが完全に去るのではなく、数日ごとに往復するつもりらしい。森の恵みを調べ、荒れた道を整え、傷んだ小屋を直す。俺もその手伝いをすることになった。彼女は俺を見て、少し笑う。 「あなたがいると、道が見つけやすいの」 確かに、俺はぬかるみや危ない石の位置を覚えるのが早かった。どこが沈み、どこが滑り、どこに風がたまりやすいか。金属の体で感じ取れる細かな違いが、今では誰かの役に立つ。逃げるために研いだ感覚が、道をつなぐために変わっていた。 数日後、街からやって来た見習いの薬師が、森の水を調べたいと言ってきた。怯えた目をしていた彼女も、セリアの後ろで丸く光る俺を見ると、最初は身構えた。それでも、危ない場所を避けるように案内すると、やがて表情が和らいだ。 「本当に、案内してくれるんですね」 言葉は通じなくても、その声には驚きと感謝があった。俺は小さく揺れた。すると彼女は、まるで答えを受け取ったみたいに頷いた。 その夜、森の縁に新しい明かりが灯った。街と森を行き来する者たちが、迷わないように置いた合図だ。俺はその明かりを、一本ずつ確かめて回った。風に弱いものは石で囲い、雨に濡れやすいものは樹の影へ寄せる。誰かに教えられたわけでもないのに、それが自分の役目だと自然に思えた。 珍しいだけの存在だと思っていた。逃げ場を探すしかないと思っていた。でも今は違う。俺はこの森にいていい。小さな体で守れるものがあり、繋げられる場所がある。 銀灰色の表面に月明かりが映る。俺は小屋の屋根の上から森と街のあいだを見下ろし、静かに身を丸めた。ここからなら、もうどちらも見える。だから俺は、誰にも見つからないまま消える必要がない。小さくても、確かにここにいる守り手として、これからも転がっていけばいいのだ。

5章 / 全10

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