エラベノベル堂

金属スライム、森を守る

全年齢

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7章 / 全10

「……待て」 霧の向こうから、低い声が落ちた。 灯りの輪がいくつも揺れ、さっきの気配より近い。俺は封印石の陰から跳び出しかけて、ぎりぎりで止まった。今飛び出せば、音だけでなく結奈の位置まで晒す。 結奈は石の根元に身を縮め、息を殺している。俺は彼女の方へ一度だけ小さく跳ねた。大丈夫、とは言えない。だが、ここにいると伝えたかった。 そのとき、霧を裂くように一人の男が現れた。長い外套、肩にかかった革の装具、手には槍。先遣隊の隊長だと、なぜかわかった。彼の視線が結奈を捉える。 「子どもか。おい、出てこい。森の奥で一人は危ない」 「ち、違う、私……」 結奈の声が震える。隊長はすぐに表情をゆるめた。 「安心しろ。すぐ外へ連れ戻す。ここは魔物が出る。お前みたいな小さいのを放ってはおけん」 その言い方に、胸の奥が冷えた。守る、という言葉なのに、視線は森へ向いていない。人を助ける顔をして、森そのものを断ち切るつもりだ。 隊長の背後で、先遣の兵が周囲を警戒している。誰も封印石には気づいていない。なら、まだ間に合う。 俺は霧の中を小さく跳ねた。ぽん、ぽん、と音をずらしながら、隊長の足元へ近づく。見えないくらいの欠片が、封印石の縁から剥がれて転がっていたのだ。先程の振動で落ちたのだろう。俺はそれを少しずつ、少しずつ、隊長の靴先へ導く。 「ん?」 隊長が足を止めた。金色に鈍く光る小片が、湿った石の上でかすかに反射している。 「これは……石材か?」 違う。そうじゃない。俺はもう一度、欠片の横へ跳び、さらに奥の封印石へ視線を誘導した。 結奈が息を呑む。 「その石……さっきまでなかった」 隊長の眉がわずかに寄る。 「森の魔物が置いたのか」 「違う!」 結奈が思わず叫んだ。自分の声に驚いたように口を押さえる。だが、もう遅い。隊長の目が、霧の奥にある封印石へ移った。 「……何だ、これは」 その一言で、誤解が形を持った。 森を襲うために集まったのではない。森の中心にある何かを、知らずに踏みにじろうとしている。隊長の視線が鋭くなるほど、その事実は濃くなる。 俺は欠片をまた跳ね、隊長の靴先と封印石のあいだに置いた。守りの結び目だ。壊すなら、まずそれを知らなければならない。 「隊長、子どもより先に、こっちを見てください」 結奈の声はまだ震えていたけれど、もう怯えに飲まれていなかった。 霧の中、隊長は黙って欠片を見下ろす。兵たちの灯りが揺れ、封印石の冷たい輪郭をかすかに照らした。 俺はその足元で、もう一度だけ跳ねた。

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