エラベノベル堂

三校長と女子高の日々

全年齢

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3章 / 全10

翌朝の朝礼は、最初から静かではなかった。 体育館の床に整列した生徒たちの前で、壇上へ向かう足音が三つ、ほとんど同じ間隔で響く。昨夜のうちに噂は校内を一周しており、みんな薄く笑いを飲み込んだ顔をしていた。 「え、また三人で出るの?」 「順番、ちゃんと決まってるのかな」 前列の誰かが小声でささやき、莉帆は胸元で手を組んだまま、壇上を見上げた。 黒田が先に立ち、マイクを一度だけ叩く。 「全員、姿勢を正しなさい。朝礼は簡潔に行う」 続いて森が穏やかに頷く。 「ですが、朝は心を整える時間でもあります。少し落ち着いて、話を聞きましょう」 最後に橘が腕を振る。 「細かいことはいい。元気よくいこう。長い話は眠くなる」 「長い話ではない」 「いや、短くまとめるべきです」 「現場では勢いが必要だろう」 もう壇上だけ別の世界だった。校長の挨拶が、ひとつ終わるたびに次が割り込み、結局それぞれが自分の流儀で話し始める。黒田は校則の再確認を厳しく告げ、森は新学期の不安を受け止めるように言葉を選び、橘は「気合い!」「やる気!」を何度も繰り返した。生徒たちは前を向いたまま肩を震わせ、笑いをこらえるのに必死だった。 「校歌、どうします?」 と森が言うと、黒田が即答する。 「一回で十分だ」 「いや、気持ちを入れるなら二回だろう」 と橘が割り込む。 結果、校歌斉唱は一回で始まったはずなのに、途中で黒田が手を上げ、森が区切りを入れ、橘が 「もう一度いける」 と言い出して、最終的に三人がそれぞれ満足する形で妙に長引いた。莉帆は額を押さえたくなったが、周囲の生徒の肩が小刻みに震えているのを見て、何とかこらえる。 問題は、そのあとだった。 「遅刻の扱いだが」 と黒田が言う。 「五分前行動を徹底する」 と森が続ける。 「いや、現場じゃ間に合えばいい」 と橘が言い切る。 体育館の空気が、目に見えて揺れた。 「じゃあ、今の到着はどうなるんですか」 と誰かが勇気を出して尋ねる。 黒田は腕を組んだ。 「定刻前だ。問題ない」 森は柔らかく首を振る。 「朝の準備を考えれば、十分余裕があります」 橘は即座に言った。 「いや、もう始まってるから遅刻だろう」 「え?」 生徒たちの声が、同時に漏れた。 莉帆は思わず前の列を見る。たしかに、全員そろっているのに、どの基準でも無事とは言い切れない顔をしている。 小さな笑いが、波みたいに広がった。けれど、その笑いはすぐに困惑へ変わる。朝礼の終わり方ひとつで、誰が遅刻扱いになるのかが三通りに割れたからだ。 「あとで職員室で確認しておきます」 と莉帆が言うと、生徒たちはほっとしたように息をついた。 だがその安堵の直後、黒田がマイク越しに告げる。 「確認は不要だ。私の基準で統一する」 森が続く。 「いえ、まずは話し合いましょう」 橘が笑う。 「いや、もう今ので十分だ。遅刻じゃない、で押し切れ」 今度は笑いも止まった。最初の小さな騒ぎは、朝礼の長さではなく、誰の基準が正しいのかで静かに燃え始めていた。

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