エラベノベル堂

三校長と女子高の日々

全年齢

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3章 / 全10

初夏が近づくころ、聖リリア女子高の空気は、春先のざわめきとは別の熱を帯びていた。文化祭が終わっても、三人の校長の勢いは衰えなかったからである。むしろ今度は、校内のあちこちに新しい企画が芽を出し、職員室は前より忙しく、前より明るかった。 その中心にあったのが委員会活動だった。ある日の合同会議で、老校長は規律委員会の見直しを提案した。挨拶や服装の整え方を、ただ厳しくするだけではなく、見本を示し合う形に変えたいという。若い校長はすぐに反応し、各委員会に発表の場を設け、生徒が自分たちの成果を言葉にできる仕組みを作ろうと言った。中堅校長は黙って板書を見つめていたが、やがて用具の置き場所や移動時間まで含めて案をまとめ、会議室の隅でうなずいた。 意見はまた噛み合わなかった。老校長は秩序を土台にしたい。若い校長は変化を先に置きたい。中堅校長は、どれほど立派な案でも、机の数と帰りの時間が合わなければ机上の空論になると言う。だが、そのたびに生徒会が間に入った。会長の紗季は、三人の言葉を順番に並べ替え、まず小さく試し、うまくいったら広げる形を提案する。教師たちも、誰か一人に従うのではなく、役割を分けて支える方法を覚え始めていた。 すると不思議なことに、学校全体が少しずつ輪郭を持ち始めた。規律委員会は挨拶運動を始め、その横で広報委員会が校内新聞を発行し、保健委員会は熱中症対策の掲示を工夫した。老校長は朝の廊下で姿勢を整えさせながら、生徒の返事のよさに目を細めた。若い校長は新聞に寄せられた感想文を読み、こんなに素直な言葉が集まるのかと驚いた。中堅校長は水筒の補充場所を増やし、誰にも気づかれないまま、いちばん実用的な貢献をしていた。 そして二学期の行事準備が始まるころ、学校はさらにひとつの段階を迎える。運動会と公開授業を同じ週に行う案が出たのだ。普通なら無茶な日程だったが、三人の校長はそこでも持ち味を発揮した。老校長は開会式を引き締め、若い校長は公開授業の内容を生徒参加型に変え、中堅校長は競技と授業の動線を細かく調整した。結果、忙しいはずの日々に、なぜか充実感だけが残った。 生徒たちは気づき始めていた。三人の校長は同じ方向を向いてはいないようで、実は同じ場所を見ているのだと。きちんと立つこと、変わること、無理なく続けること。その三つが重なったとき、この学校はただ面白いだけでなく、ちゃんと強くなるのだと。 秋の足音が聞こえた夕方、校舎の窓に西日が差し込んだ。廊下の先で、老校長が若い校長に資料を返し、中堅校長がそれを受け取って腕に抱える。たったそれだけの光景なのに、紗季は胸の奥が少し熱くなるのを感じた。三人が並ぶことは、もう混乱の象徴ではない。聖リリア女子高そのものの、静かで賑やかな心臓になりつつあった。

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