秋が深まり、聖リリア女子高の廊下には、文化祭の名残と新しい行事の準備が同じ速度で流れていた。三人の校長がいる日常にも、ようやく慣れたはずだった。けれど慣れたころにこそ、学校は別の顔を見せる。今度の議題は、来年度の教育方針だった。 会議室に集まった三人は、いつものように対照的だった。老校長は机の中央に書類を整然と積み、学校の格式を守ることこそ最優先だと静かに言う。若い校長は持参した資料を何枚も広げ、進路指導や国際交流の新案を熱心に語る。中堅校長は窓の外の部活の掛け声に耳を傾けながら、どれだけ立派な理念でも、現場が回らなければ意味がないと首を振った。 話し合いは、やはり平坦ではなかった。老校長は規則を整えたい。若い校長は制度を更新したい。中堅校長は教員の負担を減らしたい。互いの正しさがぶつかるたび、空気はぴんと張りつめた。だがそのたびに、教頭と生徒会が間を取り持った。紗季は三人の意見を黒板に並べ、共通点だけを線で結んでいく。すると不思議なことに、対立していた案のすき間から、学校の未来像が見え始めた。 きちんとした校則は残す。そのうえで、生徒の提案を受け付ける窓口をつくる。行事は大胆に見直すが、準備の段取りは現場の声を優先する。老校長は式典の言葉を担い、若い校長は新企画の推進役となり、中堅校長は日々の運営を支える。役割を分けた瞬間、三人の主張は驚くほど滑らかに並び始めた。 その変化を最初に実感したのは、意外にも吹奏楽部だった。老校長が発案した式典演奏の形式に、若い校長が部員同士の即興発表を組み合わせ、中堅校長が練習場所の確保を調整したのだ。形式ばかりでも、自由ばかりでもない。きっちりした序章のあとに、生徒たちの息づかいがふっと広がる。演奏を聴いた紗季は、思わず笑ってしまった。まるで、三人の校長がひとつの曲を別々の楽器で支えているみたいだった。 やがて委員会活動にも、その響きは広がった。図書委員は校内文庫の整理を進め、広報委員は学校の変わり続ける日常を新聞に載せ、保健委員は季節の変わり目に合わせて休憩の取り方を工夫した。どの委員会にも、老校長の厳しさ、若い校長の発想、中堅校長の手触りが少しずつ混じっていた。混乱の中心にいるはずの三人が、いつしか学校の背骨になっていたのである。 ある夕方、紗季は屋上に続く階段の踊り場で、三人の校長が珍しく並んで立っているのを見かけた。老校長が空の色を見上げ、若い校長がその横で来週の試案を口にし、中堅校長が何気なく風向きを気にしている。三人とも違う方向を見ているようで、立っている場所は同じだった。 その光景に、紗季は胸の奥が静かに温かくなるのを覚えた。最初はただの手違いだったはずだ。だが今では、この学校は三人の校長がいるからこそ、少し変で、少し眩しくて、なぜか誰も離れたくない場所になっている。聖リリア女子高の秋は、まだ名のない誇りを抱いたまま、ゆっくりと深まっていった。
三校長と女子高の日々
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