エラベノベル堂

三校長と女子高の日々

全年齢

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5章 / 全10

冬の入り口に立ったころ、聖リリア女子高へ一通の通知が届いた。教育委員会の正式な担当者が、来週、学校の運営状況を視察に来るという。しかも目的は、例の特例措置を継続するかどうかの最終判断だった。三人の校長をこのまま置くのか、それとも一人に絞り、体制を整え直すのか。職員室にその紙が置かれた瞬間、空気はひやりと固まった。 老校長は封筒を指先で押さえ、黙っていた。若い校長はいつになく早口で、制度の矛盾を洗い出すべきだと主張した。中堅校長は眉間に皺を寄せ、視察の受け答えを誰が担うか、授業や行事への影響を先に考えるべきだと言った。三人の意見は、久しぶりに噛み合わなかった。自分こそが学校に必要だという思いが、どの言葉の端にも滲んでいたからである。 会議は夜まで続いた。老校長は、校長が三人いる状態は本来ありえないと認めながらも、だからこそ学校は秩序を学んだのだと譲らなかった。若い校長は、生徒の挑戦を支えたのは柔軟な発想だったと訴えた。中堅校長は、現場が回ったのは小さな不便をその場で拾えたからだと言い返した。声は鋭くなり、最後には誰も口を開けなくなった。 その翌朝、紗季が生徒会室に呼びに来たとき、三人はまだ互いに視線を合わせていなかった。だが彼女は怯まず、文化祭や委員会活動だけでなく、日々の朝礼や掃除、進路相談まで、三人がいたからこそ助けられた生徒がどれだけいるかを静かに並べた。成績だけではない。自信を失いかけた子が立ち直ったこと。人前で話せなかった子が委員会で声を出せるようになったこと。校内に笑顔が増え、学年を越えて声を掛け合うようになったこと。 その話を聞くうちに、老校長は目を閉じた。若い校長は拳をほどいた。中堅校長は窓の外で朝の空気が揺れるのを見た。誰が上かではない。誰が正しいかでもない。三人がそれぞれ違う場所を支えたからこそ、この学校はひとつの生き物のように動き始めたのだと、ようやく全員が気づいたのである。 正式な視察の日、担当者は講堂に集まった生徒と教師を見回し、想像していたよりずっと整っていることに驚いた。そこで三人の校長は、初めて順番にではなく、役割を明確に分けて応対した。老校長は式典と校是を、若い校長は改革と広報を、中堅校長は日常運営と安全を説明した。話は驚くほど滑らかだった。互いを補い合う姿は、混乱ではなく一つの完成形に見えた。 視察後、担当者は短くうなずいた。特例として、役割分担つきで三人の校長を存続させる。条件はひとつ、互いの管轄を明確にし、定期的に連携報告を行うこと。その言葉が告げられた瞬間、講堂の後方で小さな息が広がった。誰かが拍手をし、すぐに全体へ波のように伝わった。 老校長はわずかに口元を緩め、若い校長は子どものように目を輝かせ、中堅校長はほっとした顔で天井を見上げた。三人はようやく、自分の正しさだけでは届かない場所があるのだと知ったのである。 それからの聖リリア女子高は、以前よりも少し変わった。朝は威厳のある言葉で始まり、昼は新しい企画が生まれ、夕方には現場の細かな気配りが全体を支える。三人の校長は互いを認め合いながら、それぞれの持ち場で学校を育てていった。 生徒たちは胸を張って言う。うちには校長が三人いるのだと。最初は手違いだったその事実は、いつしか誇りに変わっていた。聖リリア女子高の冬は静かだったが、その静けさの奥では、三つの力が寄り添い合いながら、笑いの絶えない明日を確かに支えていた。

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