エラベノベル堂

三校長と女子高の日々

全年齢

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7章 / 全10

講堂の扉が閉まる音が、妙に重く響いた。 莉帆は最前列の脇に立ったまま、ざわつく空気を見上げる。監査用の席に並ぶ教育委員会の面々は、どれも表情を崩さない。けれど、その中央で映し出された資料が切り替わった瞬間、会場の空気が一気に刺々しくなった。 「では、任命の経緯について」 無機質な声が進行を告げる。次のページに現れたのは、三人の名前が並んだ採用関連の記録だった。 黒田、森、橘。それぞれに別の担当欄があり、さらに選考の最終段に、こう記されている。 一人の校長を決める最終選考 「……一人、だったの?」 莉帆の声は、自分でも驚くほど小さかった。 黒田がすぐに反応する。 「当然だ。校長は一人であるべきだ」 森も資料を見つめたまま、静かに続けた。 「私たちは、それぞれ別の採用試験の担当をしていたんですね」 橘が眉をひそめる。 「別々の担当? どういうことだ」 資料はさらに進む。面接、実地確認、最終判断。それぞれの項目に、三人が別々の立場で関わっていたことが示されていた。莉帆は息を呑む。てっきり、配属の手違いで三人が重なったのだと思っていた。だが、画面に浮かぶ言葉はそれを否定する。 意図的な配置。 教育委員会による試験運用。 講堂のざわめきが、ひび割れみたいに広がった。 「実験……?」 誰かの声が裏返る。 委員の一人が淡々と説明を続ける。 「桜丘女子高校を対象に、異なる資質を持つ校長を同時配置した場合の校内適応を検証していました」 「ふざけるな!」 橘が椅子を鳴らして立ちかけ、黒田が鋭く制止する。 「座れ。ここで騒いでも記録は変わらん」 「変わらなくても、腹は立つだろ」 森は唇を結び、しばらく黙ってから、ようやく言った。 「つまり、私たちは間違って来たんじゃない。最初から並べられていたんですね」 その言葉に、会場の空気がさらに揺れた。生徒たちの間からは困惑と怒りが入り混じったざわめきが起き、教師たちも顔を見合わせる。莉帆は拳を握りしめたまま、壇上を見つめた。 騒然としているのに、妙に現実感がない。三人が同じ学校にいる理由が、偶然ではなく実験だったなんて。 そのとき、後方の生徒席から、ひときわ大きな息が漏れた。 「だったら、面白いじゃん」 一斉に振り向くと、言った本人は照れたように肩をすくめる。 「だって、こんな校長、普通いないし」 そこへ、別の声が重なる。 「怒るのは後。まず、どう受け止めるかでしょ」 莉帆は、その一言で少しだけ肩の力が抜けるのを感じた。まだ怒りは消えない。けれど、止まっているだけでは飲み込まれる。 黒田が低く息を吐く。 「……教育委員会のやり方に問題があるのは確かだ」 森が頷く。 「でも、学校は止められません」 橘が苦々しく笑った。 「止めるより、使ってやる方が早いか」 騒ぎの中心で、莉帆はその言葉を聞いた。講堂の空気はまだ荒れている。なのに、その混乱の隙間から、次に何かを動かそうとする熱が見えた気がした。

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