エラベノベル堂

三校長と女子高の日々

全年齢

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8章 / 全10

中庭の空気は、講堂のざわめきの続きみたいにざらついていた。昼の熱が石畳に残り、植え込みの葉まで落ち着かない。怒り切れない生徒たちが、ベンチの周りで小さく輪になっている。 「つまり、私たち、実験台だったってこと?」 「ふざけてる。ほんとにふざけてる」 「あの三人、最初からそういう役目だったの?」 莉帆はその声を受け止めながら、ゆっくり息を吸った。落ち込む気持ちは、もちろんある。けれど、ここで空気を沈めたままにしたら、学校はただの被害者で終わってしまう。 「だったら」 莉帆が口を開くと、視線が一斉に集まった。 「だったら、この学校を面白くする企画に変えよう」 「は?」 と新田が目を瞬かせる。 「面白く、って」 「怒るだけじゃ、委員会に飲まれる。だったら、見せ方を変えるの。三人の校長を、うちの文化祭の目玉にする」 近くにいた実行委員たちが、顔を見合わせた。最初は戸惑いがあったが、その中に、わずかな火が点る。 「展示なら、三人の違いを並べられる」 「寸劇なら、あの朝礼のカオスも笑いにできるかも」 「校長クイズ、絶対ウケる」 莉帆は頷いた。 「黒田先生は規律、森先生は対話、橘先生は現場対応。強みがはっきりしてるなら、全部見せればいい。笑いに変えれば、こっちの勝ちになる」 新田が苦笑した。 「言うのは簡単だけど、実際に動かすのが一番大変なんだよな」 「だから副会長、頼む」 「頼むって顔じゃない」 「今は顔じゃなくて実行力」 新田は肩をすくめ、それから口元を上げた。 「……まあ、やるけどさ。実行委員、集めるか」 その一言で、輪の空気が少し変わった。落ち込みはまだ残っている。それでも、ただ沈んでいた気持ちに、前へ押し出す向きが生まれる。 「展示は掲示でいける。三人の発言比較とか」 「寸劇は、校長三人のぶつかり合いを少し誇張して」 「クイズは、みんな参加型にしよう」 あちこちで案が飛び交い、実行委員たちの手が自然と動き始める。紙を広げる音、ペン先が走る音、呼び合う声。さっきまでの重さが、作業のリズムに削られていく。 その中心で、莉帆は中庭の空を見上げた。雲は薄く、校舎の白い壁に春の光が跳ねている。 怒りは消えていない。けれど、怒りだけでは届かない場所がある。 「混乱したまま終わるより、笑わせたほうが早いでしょ」 莉帆の言葉に、誰かが吹き出した。 「会長、それ、かなり強引」 「強引でも、やる価値はある」 そのとき、遠くの廊下のほうから、三人の校長の声がかすかに重なって聞こえた気がした。黒田の鋭い調子、森の穏やかな響き、橘の勢いのある声。まだ何も終わっていない。けれど、もうただ振り回されるだけではない。 莉帆は実行委員たちに向き直り、はっきり言った。 「じゃあ、作ろう。うちの学校でいちばん騒がしくて、いちばん笑える企画を」 中庭に、少し遅れて大きなうなずきが広がった。

8章 / 全10

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