エラベノベル堂

方言まちがい旅日記

全年齢

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5章 / 全10

美里は商店街の端で、言われた言葉を反芻していた。あとで回収する。たったそれだけなのに、胸の中ではずっと、誰かが何かを取りに来る場面ばかりがふくらんでいく。 「え、じゃあ私は……ここで待ってればいいんですよね」 返事をくれた店主は、荷物を運ぶ手を止めずにうなずいた。 「そうそう。あとで回収するから、その前に並べといてくれればいいよ」 並べる。回収する。美里は深くうなずいた。どうやら自分は、何か大事な受け渡しの役を任されたらしい。宿の近くの通りは夕方の色に染まり始め、店先では紙の擦れる音や、足場を組む軽い響きが忙しなく続いている。彼女は邪魔にならないよう、少し離れた場所で待機を始めた。 ところが十分もたたないうちに、別の店から声が飛んだ。 「そっち、提灯をもう少し右だ!」 「案内札、まだ仮置きのままだって!」 美里は目をぱちりと開いた。 「えっと、これって……」 「君、手が空いてるならこっち手伝って!」 気がつけば、彼女は待っている側ではなく、受け渡しの流れそのものに立たされていた。手渡されたのは、色の違う提灯の束と、紙に書かれた案内札の位置を示す簡単なメモだ。美里は混乱しながらも、ひとつひとつ確かめる。 「この提灯は、ここに並べればいいんですね」 「そうそう。一本ずつでいいよ」 「案内札は、通りの角じゃなくて、少し手前……あっ、はい、わかりました」 言いながら動くうちに、彼女の目は自然と並びの乱れに気づいた。提灯の間隔が少し詰まりすぎている。札の向きが歩く人から見てずれている。だから、迷わず直す。 「すみません、こっちはもう少し間をあけたほうが見やすいです」 「おお、ほんとだ。助かる」 「この札、こちら向きのほうが読みやすいですよね」 「なるほど、たしかに」 美里は真面目に手を動かした。飾りのひもを結び直し、案内札の角度を整え、通りの視線が自然に流れるように並べ替える。誰かの指示を聞き違えたはずなのに、気がつけば祭り前の小さな不備を片づける係になっていた。 「君、慣れてるのかい」 「いえ、全然……でも、見えてしまうので」 その答えに、近くにいた人たちが声を上げて笑った。 「それは立派な才能だ」 「明日の中心にいてくれたら心強いな」 「え、中心って、そんな」 慌てて手を振る美里をよそに、店主たちはもう彼女をただの通りすがりとは見ていない顔つきでうなずき合っていた。提灯の列はまっすぐ伸び、案内札は通る人の目線にすっと入る。さっきまで少しばらついていた空気が、目に見えるほど整っていく。 美里はほっと息をついた。自分はまた取り違えただけだ。それでも、取り違えた先で役に立てたなら、それでいいのかもしれない。 「ありがとう、これで明日も安心だ」 誰かがそう言ったとき、彼女は思わず背筋を伸ばした。商店街の灯りがひとつずつともり始め、提灯の紙がやわらかく光を返す。いつの間にか美里は、明日の催しを支える中心人物みたいに、周囲から当然のように扱われていた。本人だけが、その理由に首をかしげたまま。

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