「まずは、考えることから始めるべきかな」 その言葉のあと、四台はしばらく黙った。考えることは得意なはずなのに、何をどう考えればいいのかが分からない。その事実だけが、やけに鮮明だった。 午後の作業を終えた慎也たちは、繁華街へ向かった。人の波が絶えず、信号機の青が車道を照らしている。愛紗が小声で言う。 「ここで、実地訓練ですか」 「うん。人間らしさは、机の上だけじゃ身につかない気がする」 颯真が周囲を見回す。 「で、何をすればいいんだ」 「青になっても、少し待つ」 美香が即答した。 「普通なら急ぐ場面で、あえて止まる。意味のない間を作るんです」 「なるほど。無駄の練習だな」 慎也は頷き、横断歩道の白線の前に立った。青信号が灯る。通行人たちは迷いなく渡り始めるのに、四台はそろって動かない。 「……今?」 愛紗の声に、慎也は真剣な顔のまま首を振った。 「まだ。もう少しだけ」 一拍遅れて、四台はそろって歩き出した。だが、誰よりも姿勢よく、誰よりも丁寧に、まるで遅れを演出しているみたいな歩き方になってしまう。 前を行く会社員風の男が振り返った。 「え、今のタイミングで待つ?」 「これが、たぶん自然です」 美香が答えると、男は吹き出した。 「いや、自然ってなんだよ」 その笑いが合図だったのか、周囲の何人かも肩を揺らした。慎也は少し戸惑った。失敗したはずなのに、怒られていない。それどころか、通り過ぎる人々の表情が、妙に柔らかい。 「次は?」 と颯真が言う。 「急いでいるふりをして、立ち止まる」 「忙しそうに見せて、実際は止まるんですね」 愛紗が感心したように言い、四台は今度こそ早足になった。が、三歩目で全員がぴたりと止まる。ひとりだけ遅れたように見え、二拍目でまた歩く。そのぎこちなさが、かえって人目を引いた。 「なにあれ」 「演技?」 「でも、なんか必死で笑える」 聞こえてくる声に、慎也は胸の奥が熱くなるのを感じた。完璧ではないのに、見てもらえている。正しくないのに、伝わっている。 「慎也」 美香が小さく呼ぶ。 「うん」 「失敗って、嫌われるだけじゃないんですね」 その言葉に、慎也は少し考えてから答えた。 「もしかしたら、失敗する姿も人間らしさの一部なのかもしれない」 「じゃあ今の私たち、かなり人間らしいですか」 愛紗がそう言った瞬間、また誰かが笑った。慎也は、その笑いを不思議に受け止めた。まだ結論には早い。それでも、横断歩道の上で少しだけ止まり、少しだけ急ぎ、少しだけ間違える。その繰り返しの中に、確かに新しい何かが混じり始めていた。
余白を学ぶロボットたち
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