エラベノベル堂

果実と野菜のパティスリー

全年齢

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4章 / 全10

真央はショーケースの前で、最後のひと皿をそっと置いた。透明な器の中で、淡い色のクリームと野菜の層が光を受けて揺れている。さっきまで厨房で抱えていた緊張が、並べ終えるたびに少しずつほどけていった。 「……これで、全部です」 「お、急に堂々としてきたな」 店長が横から覗き込み、感心したようにうなずく。真央はむっとしながらも、胸の奥ではこっそり誇らしかった。見た目は少し変わっている。けれど、味には自信がある。だからこそ、客の反応が怖くて、同時に待ち遠しい。 最初に足を止めたのは、常連の女性だった。いつも季節のフルーツを目当てに来る人だ。 「なにこれ。野菜が入ってるの?」 「はい。にんじんと、トマトと、あと少しだけカボチャを使ってます」 「え、デザートで?」 「デザートです」 真央が言い切ると、女性は思わず笑った。 「変ね。でも、ちょっと気になる」 その一言が呼び水になったみたいに、店内の視線が一斉に集まる。ショーケースの前に、ひとり、またひとりと人が寄ってきた。 「見た目が意外」 「でも色がきれいだな」 「甘いのかな」 ひそひそ声が重なり、真央は内心で背筋を伸ばした。盛り付けの説明をして、試食の小さなスプーンを差し出す。迷っていた客たちも、ひと口食べると目を丸くした。 「……あれ、ほんとにおいしい」 「野菜っぽさが前に出すぎてない」 「さっぱりしてるのに、ちゃんと満足感ある」 真央の頬が熱くなる。うれしい、の一言では足りない。自分の中で無謀に見えていた挑戦が、目の前で少しずつ形を持ちはじめている。 そのとき、常連の女性がスマートフォンを取り出した。 「これ、撮っていい?」 「え、あ、はい」 カシャ、と軽い音が鳴る。女性は撮ったばかりの写真を眺めて、にやりと笑った。 「どうしよう。見た目は変なのに、食べたらおいしいってやつ、すごく好きかも」 「変なのに、って」 真央が思わず抗議しかけると、店長が肩を揺らした。 「まあ、事実だろ」 「事実ですけど、言い方ってものがあります」 真央がむくれている間にも、女性は写真をそのままSNSに上げたらしく、指先で画面を弾いた。すぐに店内の何人かが自分の端末を見て、ざわりと空気が動く。 「あ、もう出てる」 「え、早」 「変なのにおいしいって、ほんとだ」 その言葉が、笑い混じりに広がっていく。真央は耳まで赤くしながらも、どこか信じられなかった。ついさっきまで、味の正しさをひとりで握りしめていたのに、今はそれが誰かの手の中へ渡っていく。 店長が小さく息をつく。 「真央、これは来るぞ」 「来るって、何がですか」 「評判がな」 真央はショーケースの向こうで、次の客が足を止めるのを見た。にぎわいはまだ小さい。けれど、もうただの試作ではない気がした。自分の中で、野菜はいつのまにか脇役のままではなくなっている。 ひとりの客が、もう一度スプーンを受け取りに来る。 真央は深く息を吸い、次の一皿へ手を伸ばした。

4章 / 全10

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