エラベノベル堂

果実と野菜のパティスリー

全年齢

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6章 / 全10

真央は、真夜中の静けさをかき消すみたいにボウルをかき混ぜていた。自宅のキッチンは店ほど広くないのに、気づけば野菜の袋や保存容器で埋まりかけている。冷蔵庫を開けるたび、整然と並ぶ緑や橙が目に飛び込んできて、彼女はなぜか落ち着かなかった。 「なんでこんなにあるの……」 ぽつりとこぼしてから、真央ははっとする。足りないのは道具じゃない。ひょっとしたら、足りないのは自分のほうなのかもしれない。さっきから頭の中では、にんじん、かぼちゃ、トマトの甘みと香りが勝手に組み替わっている。眠気はどこかへ逃げ、代わりに妙な高揚だけが残っていた。 冷蔵庫の奥を探る指先が、ふいに丸いものに触れる。取り出した瞬間、真央の肩がびくりと跳ねた。 「えっ、果物……?」 そこにあったのは、つやのある果実だった。たったそれだけなのに、彼女はなぜかひどく動揺した。いつもなら嬉しくなるはずなのに、今は見慣れないものを見たみたいに胸がざわつく。 「私、何に夢中になってるの……」 問いかけた声は小さく、キッチンの白い壁に吸われた。果物を手にしたまま立ち尽くすと、野菜の香りと甘い香りが頭の中でぶつかり合う。片方だけでは物足りない気がして、けれど片方を手放すのも違う気がした。 真央はテーブルに果物を置き、メモ用紙に勢いよく書きつける。 野菜だけで押し切るのではなく、看板ごと変えるなら、もっと大胆にいけるのではないか。 その発想に自分で息をのんだ。 「店の看板……野菜仕様にしたら、どうなる?」 思いついた途端、真央の目が本気になる。フルーツの文字の横に、野菜の絵を並べる案。いや、いっそ店名の雰囲気から変えてしまえば、みんなもっと驚くかもしれない。紙の上で文字を直すたび、胸がどんどん熱くなる。 「これ、ありかも……」 言ってから、真央はにやりと笑った。もう自分でも止め方がわからない。気づけば、看板まで書き換える勢いで夢中になっている。冷蔵庫の中では果物がひっそり光り、テーブルの上では野菜のメモが増えていく。 そのとき、時計の針が静かに音を立てた。真央はペンを握ったまま、次にどこへ手を伸ばすべきか考える。

6章 / 全10

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