夜が深まりきったころ、俺は奏多と並んで王都の石畳を進んでいた。人通りの消えた通りは静かで、靴音だけがやけに響く。昼間の騒ぎが嘘みたいに、街は眠っている。だが、空気の底にはまだ嫌なざわつきが残っていた。 「本当にこの先なのか」 奏多が小声で尋ねる。 「ああ。結界の乱れは、あの書物の記述とつながってる。源をたどれば、どこかに痕跡があるはずだ」 俺はそう言いながら、目の前の路地の先に続く下り階段を見た。普段は使われていないらしく、石段の縁には薄く埃が積もっている。だが、地下へ向かう風だけがひんやりと生きていた。 「うわ、こういうの、いかにも怪しいな」 「怪しいからこそ、隠れている」 「嫌な説得力だな」 奏多は苦笑しつつも、歩みを止めない。俺は先に立ち、階段を一段ずつ下りた。壁には古い封印の痕があり、途中で何度も補修された跡が見える。けれど、補修は途中で途切れ、今はただ、削れた石が湿気を吸っているだけだった。 地下は冷たい。息を吐くと白く見えそうなほどで、遠くで水滴が落ちる音がした。やがて階段の終わりに、半ば崩れた石扉と、その向こうに封鎖された空間が現れる。 「ここ、遺跡か?」 奏多の声が震えた。 「たぶん、古い封印施設の一部だ。王都の下に残っていてもおかしくない」 俺は扉の隙間から中を覗き、魔力の流れを読む。壁の文様は古すぎて判読しづらいが、中央へ向かうほど密度が高い。何かを守るための空間だ。 そこで、胸の奥がぴくりと反応した。 いや、胸の奥ではない。指先だ。 ポケットの中に入れていた、小さな鍵が熱を持ったのだ。前世で、俺が確かに扱った記憶だけが残る、古い意匠の鍵。大賢者として最後に封をしたものに近い、あの感触。 「……まさか」 息を漏らした瞬間、鍵が淡く光った。 奏多が目を丸くする。 「おい、何だそれ」 「黙れ。今、何かが反応してる」 近づけると、扉の先、石造りの広間の中央にある祭壇が、低い唸りを上げた。長い年月で灰をかぶったその台座には、鍵と同じ文様が刻まれている。俺は思わず立ち尽くした。 前世の大賢者が残した鍵。それに応える祭壇。 まるで、ずっと俺を待っていたみたいに。 「……やっぱり、ただの遺構じゃない」 俺がそう呟いたとき、祭壇の表面に走る光が、一筋だけ強く脈打った。地下の闇が、その瞬間だけ静かに息を潜めた。
大賢者の再起
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