エラベノベル堂

村人として生き直す

全年齢

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6章 / 全10

柵の向こうで、風がひときわ強く鳴いた。老人の言葉がまだ耳の奥に残っているのに、次の瞬間、村の外れの空気そのものが軋んだ。 「……っ、何だ」 目の前の門は、森へ続く小道の先に立つ古い封印だった。木組みの梁に刻まれた紋様が、淡い光を失って明滅している。見慣れたはずの境界が、今は嫌なほど生々しく息をしていた。 「門が揺れてる……?」 背後から駆けてくる足音がする。振り返ると、村の男たちや女たちが不安そうな顔で集まり始めていた。 「子どもは家に戻してくれ!」 「井戸の方へ下がれ、ここは危ない!」 自分でも驚くほど、口が先に動いた。 誰かに教えられたわけじゃない。なのに、結界の糸がどこで絡まり、どこがほどけかけているかが、頭の中で自然にわかる。 「そっちじゃない。門から真っすぐ離れて、広場の灯りの方へ」 「お前、何でわかるんだ?」 「わからないけど、わかるんです!」 言い切った直後、自分の声に自分で息をのんだ。だが迷っている暇はない。門の光が一度、ぐらりと傾き、見えない波が村へ押し寄せてくる気配がした。 「今のままじゃ、みんなが巻き込まれる」 俺は門の土台に視線を落とした。紋様の一部が、村の道や井戸の記録で見た印と同じ形をしている。いや、印だけじゃない。壊れた帳面の空白も、井戸に映った細い通路も、全部この結界の一部だったのだ。 「村人A……」 思わず口にすると、妙にしっくりきた。背景のようでいて、背景に収まらない。目立たないからこそ、門の仕組みの隙間が見える。見えるのではなく、最初からそこへ置かれていた。 「お前、こっちだ」 老人の声が飛ぶ。俺ははっとして、門の脇に落ちていた小石を拾い上げた。 「それを印の切れ目へ投げろ。焦るな、だが遅れるな」 「やってみます」 小石を構える手が震える。けれど、門の揺れ方を見れば、次にほどける場所がなぜか読めた。俺は息を止め、狙いを定める。 「……今だ」 投げた石が紋様の隙間に当たると、淡い光が一度だけ走った。門の軋みが少し収まり、集まった村人たちのざわめきが遠のく。 「効いた……?」 誰かがつぶやく。 俺はまだ息を整えながら、震える指先を握りしめた。できることは少ない。けれど、何もできないと思っていた自分が、今ここで確かに役に立っている。 門はなお不穏に明滅していた。だが、その中心にある歪みの輪郭が、ほんのわずかに見えてきた。

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