「温度ごとに、置く場所を分けるだけで全然違うわね」 久美子は独りごちて、厨房の中央に新しく並べた配膳台を見回した。火を吐く園児向けの鍋は熱を逃がしにくい台へ、ぬるくなりやすい皿は別の位置へ。札の色とも合わせておけば、慌ただしい中でも迷いにくい。さっきまで立ちこめていた湯気も、ようやく落ち着いて見える。 「これで、冷めすぎる前に出せるはず」 そう言った矢先だった。 「せんせー、これ、ひえる?」 天井の近くから、透き通る声が降ってくる。見上げると、氷の翼を持った園児が、目をきらきらさせながら冷やし用の箱のそばにいた。 「うん、冷たくしてあるデザートよ。触るのは――」 「わーい!」 止めるより早く、翼がひらりと舞った。ひとかきの風が、冷やしていた皿の表面をなでる。次の瞬間、箱の中で白い霧がふわりと広がり、同じような小鉢が、まるで増えたみたいに並んでしまった。 「えっ」 久美子が目を瞬いた。冷やしすぎた空気が行き場をなくし、厨房の隅から隅へ、小さな吹雪になって流れ込んでくる。棚の上に積もった霜がさらさらと落ち、床がきらきらと白く曇った。 「わあ、きれい!」 「でも、ちょっと寒い!」 「こっち、見えない!」 園児たちの声が重なり、配膳の流れが止まりかける。久美子は息を吸い、慌てた顔を飲み込んだ。 「大丈夫。まずは、冷たいものを増やさないで、分けて運ぼう」 「てつだう?」 氷の翼の園児が、申し訳なさそうに羽をたたむ。久美子はすぐに首を横に振った。 「いいわ。あの札を持って、冷たい列と温かい列を案内してくれる? それから、白くなった場所に布をかけて、滑らないようにして」 「ぼく、いく!」 「こっちの札、ひんやりだ!」 「ぼくはあったかいの、みてくる!」 園児たちは一斉に動き出した。先ほどまでの吹雪じみた騒ぎが、手伝いの声に変わっていく。久美子も小鉢を一つずつ手に取り、霧の中で札を見やすい位置へ並べ直した。 「そう、その調子。焦らなくていいの。みんなで見れば、ちゃんと戻せる」 氷の翼の園児が、布を引っ張りながら振り返る。 「せんせい、これでいい?」 「ええ、すごくいいわ」 久美子はそう答えてから、ふっと笑った。厨房に舞っていた白い風は、まだ少しだけ頬を冷やしていたけれど、今度は困りごとではなく、働く手の気配に見えている。
モンスター園の給食担当
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