エラベノベル堂

モンスター園の給食担当

全年齢

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5章 / 全10

食堂のざわめきは、給食がほぼ片づいたあともすぐには消えなかった。椅子を引く音、口の周りをぺろりと舐める音、満足そうな息。久美子は配膳台の横で、空になった器を重ねながら、ひとりひとりの顔を見た。 「おいしかった?」 「おいしかった!」 勢いよく返る声がある一方で、皿をじっと見つめたままの子もいる。丸いスープ皿を指でなぞる子、ふちの厚みに不満そうに眉を寄せる子、柔らかい煮物には喜んだのに、同じ食材でも形が違うだけで首をかしげる子。久美子は胸の奥に、ひそかな違和感を覚えた。 味はそろっていた。けれど、それだけでは足りない子がいる。 「ねえ、せんせい」 一人が手を上げる。 「これ、ちょっとやわらかすぎる」 「ぼくは、もっとかたいほうがうれしい」 別の子は、逆に小さく唸った。 「まるいの、たべにくい」 「長いのがいい」 「四角いのは、持ちやすい」 久美子は目を丸くした。味の好みだけじゃない。食感、形、持ちやすさ。そんなところまで、ちゃんと個性があるのだ。 「なるほど。そういうことか」 思わず呟くと、肩の力が少し抜けた。全員を同じにしようとしていたのが、そもそもの間違いだったのかもしれない。 「みんな、ちょっと聞いて」 久美子は皿を置き、両手を軽く叩いた。 「これからは、全部を同じにするんじゃなくて、基本はそろえる。でも、選べるところを少し作るの」 「えらべる?」 「うん。たとえば、汁物はみんな同じでも、具の大きさを少し変えられる。柔らかめと、しっかりめ。丸い形と、細長い形。食べる子に合わせてね」 園児たちの目が、じわじわと明るくなる。 「それなら、食べやすい!」 「ぼく、四角いの!」 「わたし、ふわふわがいい!」 久美子はうなずいた。 「そう。全部をばらばらにするんじゃない。土台は同じで、そこから分かれるの。みんなで同じ時間に食べるための、分かれ道ね」 言いながら、久美子の頭の中で、はっきりと形ができていく。ひとつの献立を真ん中に置き、そこからいくつかの形や食感に枝分かれさせる。選べるけれど、迷わせない。そろっているけれど、無理はない。 「分岐式給食、って感じかしら」 口に出すと、なんだか頼もしく聞こえた。 「ぶんきしき?」 「ええ。みんなの個性をそのまま活かせるやり方よ」 さっきまで不満そうだった子も、今は目をぱちぱちさせている。 「ぼくのかたいの、ある?」 「あるわ。ちゃんと用意する」 「じゃあ、ぼくはまるいの!」 「もちろん」 久美子は笑って、空になった皿をそっと重ねた。全部を均す必要はない。違いがあるから、選ぶ楽しさもある。 「よし。次からは、基本はそろえて、少しだけ分かれる。みんなが自分の食べやすさを選べるようにしよう」 園児たちは、わあっと小さく沸いた。食堂の空気が、食後の眠たさとは別の、静かな期待で満ちていく。 久美子はその真ん中で、ふっと笑った。今日はこれで十分だ。けれど、これで終わりではない。むしろ、ここから本当に始まるのだと、彼女ははっきり感じていた。

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