エラベノベル堂

断片を結ぶ町

全年齢

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4章 / 全10

昼の商店街は、平日のわりに人の流れが途切れなかった。拓海は千颯と並んで歩きながら、スマホに映した文字列をもう一度確かめる。aaaaaaafdgdg。意味はまだない。なのに、記号みたいな並びのどこかが、目の前の通りと噛み合っている気がした。 「で、ここで合ってんのかよ」 「たぶんな。ほら、あの辺の古い店の並び」 千颯が顎で示した先に、色あせた看板の文具店がある。入口の脇には、今は使われていない郵便受けが壁に残っていて、拓海はそれを見た瞬間、胸の奥がわずかに跳ねるのを感じた。昔、ここに集合ポストがあったという話を思い出したからだ。 「記号の並びって、こういう場所に関係あるのかも」 「雑すぎる推理だな」 「でも、ないとも言えないだろ」 店先の風鈴が細く鳴った。中から出てきた店主の昭宏は、拓海たちを見るなり、少し驚いた顔をしたあと、すぐに朗らかに笑った。 「何を探してるんだい。釘か、ノートか」 「えっと……昔、この辺に集合ポストがあったって聞いたんです」 拓海がそう言うと、昭宏はああと短くうなずいた。 「あったよ。店の横の壁際にね。数年前までは、子どもたちが勝手に使ってた」 「勝手に?」 「秘密の交換メモを入れて遊んでたんだ。誰に届くでもないのに、入れたら誰かが返事を書く。そういう遊びが流行ってね」 千颯が目を細める。 「へえ。今どきの掲示板みたいなもんか」 「そんな洒落たもんじゃないさ。紙を折って、合図みたいにしてたんだよ」 昭宏はそう言って、店の脇の少しへこんだ地面を指した。そこには、かつて何かが据えられていたような痕跡だけが残っている。 拓海はその場所を見下ろした。さっきまで、文字列はただの違和感だった。けれど、子どもたちが遊びに使った隠し場所だったと聞いた途端、急に輪郭が生まれる。誰かがふざけて残しただけではない。ここに、手渡しの気配が確かにあった。 「……なんか、急に現実っぽくなったな」 千颯が小声で言う。 「うん」 拓海は頷いたまま、壁際の小さな空白を見つめた。文字列の一部が、折り目や並べ方の癖みたいなものだったとしたら。そんな想像が、胸の中で静かに形を持ち始める。 「昔の遊びだとしても、ただの落書きじゃない気がする」 昭宏は腕を組み、少しだけ遠くを見る目をした。 「子どもの遊びってのは、案外大事な約束を隠してるもんだよ」 その言葉に、拓海は思わず顔を上げた。約束。その一語だけが、やけにまっすぐ耳に残る。謎はまだ解けない。けれど、文字列の向こう側に、誰かの記憶とここで交わされた小さなやり取りがある。それだけは、はっきりしてきた。

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