エラベノベル堂

断片を結ぶ町

全年齢

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9章 / 全10

夕方の光が、児童館の裏庭に長く傾いていた。伸びた草の先に、古い缶や紙船が少しずつ並べられていく。結衣奈が紐を結び、拓海が紙船の位置を直す。その横で千颯が 「こっちはもう少し見えるようにしろよ」 と言い、瑠奈は飾りに添える小さな札を書き、昭宏は工具箱を開けたまま腕を組んでいた。 「ほんとに、こんなに集まるとはな」 昭宏が感心した声を漏らす。結衣奈は照れたように笑った。 「拓海が来てくれたからです」 「俺?」 「そう。最初の合図を見つけてもらえなかったら、ここまで来れなかった」 拓海は紙船をひとつ持ち上げる。夕風で軽く揺れて、白い腹が光を拾った。 「でも、あの文字列……まだ全部はわからない」 「全部わからなくていいんだよ」 瑠奈がやわらかく言った。 「言葉って、解けることより、呼び戻すことのほうが大事なときがあるから」 千颯が鼻を鳴らした。 「つまり、難しい顔してたのは損ってことか」 「そういう言い方をすると身もふたもないです」 結衣奈が笑うと、拓海もつられて口元がゆるむ。裏庭の片隅には、河川敷で見つけた缶も置かれていた。錆びた表面に、誰かが細い紐を巻いて飾りにしている。中から取り出した紙片の文字は、まだ見慣れないままだったが、その存在だけで十分に役目を果たしているように見えた。 「これ、並べてみたらさ」 千颯が缶と紙船を見比べる。 「ただのガラクタじゃなくなるな」 「ガラクタじゃないよ」 昭宏が低く言った。 「遊び場の合図だ」 その一言に、拓海はふっと息を止めた。遊び場。そこにあるのは、謎そのものではない。誰かが帰ってきたくなる場所で、誰かがまた来られるように残した目印だ。 結衣奈は、最後に紙船を一つだけ拓海へ差し出した。 「ねえ、これを中央に置いて」 「うん」 拓海が受け取ると、紙は思ったよりあたたかかった。ゆっくり飾りの間へ戻しながら、胸の奥にあったざらつきが少しずつほどけていくのを感じる。自分は謎を解く中心にいたんじゃない。誰かが失いかけた場所へ、もう一度足を向けるための道しるべだったのだ。 文字列の意味は、まだ口にすればすぐに消えてしまいそうだった。けれど、それでいいのかもしれない。言い切れないままでも、ここには確かに人がいる。 裏庭に並んだ飾りの向こうで、閉ざされていた建物の窓が、夕方の光を細く返した。

9章 / 全10

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