「……で、これ全部、箱に入れていいんだよな」 高梨拓人は選果場の端に並んだコンテナを見下ろしながら、思わず小声でつぶやいた。朝の畑であの騒ぎが起きてから、収穫した野菜をここへ運ぶだけでも神経を使う。だが、運び込んだ先で待っていたのは、もっと落ち着かない光景だった。 『もちろんだよ! やっと選ばれたって感じ?』 『選ばれるのはいいけどさ、こっちはもう少しやさしく扱ってほしいんだけど』 『その箱、ちょっと湿ってる。トマトには向かないよ』 かごの中から、さっきよりずっと大きな声が返ってくる。トマトだけではない。きゅうり、ナス、ピーマンまで、まるで順番待ちの演説会みたいに好き勝手しゃべり出した。 「静かにしろ、静かに! 外まで聞こえるだろ」 拓人は慌てて周囲を見回した。選果場の扉は半分開いていて、近所の直売所へ持っていく準備の車も見える。誰かに聞かれたら終わりだ。農園の若い後継ぎが、野菜相手に口論しているなんて、笑い話ですまない。 『だって本当のことだし』 『昨日より甘くなってるの、気づいてる?』 『この畑、朝だけじゃなくて昼も熱がこもるんだよ。だから味が乗るの』 拓人は一瞬だけ手を止めた。味の話までは、まだいい。だが、こいつらは収穫時期の感想みたいなものから、畑の様子まで妙に言い当ててくる。 「なんでそんなことまで知ってるんだよ……」 返事の代わりに、箱の中のトマトが揺れた。 『だって見えてるもん』 『根っこのあたり、最近ちょっと変だし』 『あっちの畝、昨日と土の匂いが違う』 拓人の背中に、ぞくりと冷たいものが走る。最初は疲れのせいだと思っていた。次に、収穫の勢いで野菜が妙に騒がしいだけだと笑い飛ばした。だが今は違う。声がはっきりしているだけじゃない。日に日に増えている。しかも、ただうるさいだけでは済まない何かが混じり始めていた。 「おい、まさか……」 『なに、拓人、怖くなったの?』 『でもさ、黙ってるより言ったほうがいいこともあるよ』 『そうそう。隠してると、余計に目立つし』 「誰が隠してるんだ、誰が」 拓人は苦笑を作ったが、喉の奥は乾いていた。選果場の外では、誰かが軽トラックを止める音がした。こんな騒ぎを抱えたまま、平然と出荷作業を続けるしかないのかと思うと、気が遠くなる。 箱の中の野菜たちは、なおも口々に畑のことを語り合っている。いつもの収穫作業が、いつの間にかこちらが尋問される場に変わっていた。 拓人は手元のラベルを見つめ、息を整えた。 これは、ただの珍現象じゃない。 そう思った瞬間、トマトの一つが、なぜか妙に得意げに言い切った。 『ようやく気づいた?』
しゃべる野菜の収穫日
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