エラベノベル堂

しゃべる野菜の収穫日

全年齢

小説ID: cmnhb9fo3005p01o7jun5uhh0

4章 / 全10

倉庫で見つけた記録を読み終えたあとも、畑の声はすぐには静まらなかった。むしろ真実が見えたせいで、野菜たちは妙に気が大きくなったようだった。 「つまり僕らは、由緒正しい騒がしさってことだね」 トマトが胸を張る。 「由緒を盾にするな」 俺はため息をつきながら、収穫かごを並べ直した。 「でも、黙れと言われるよりはましでしょう」 キュウリが冷ややかに言う。 「それはそうだが、近所にまで聞こえたら困る」 畑の向こうでは、まだ昼の熱がゆらゆらと残っていた。空気が重く、葉先の影まで白く焼けて見える。俺は黒板に書いた順番表を見直し、声の大きいものを最後に回すことにした。トマト、キュウリ、ナス。いつもの三人は文句を言いながらも、意外なほど従順だった。むしろ困ったのは、他の野菜たちだった。 ピーマンは自分の番が来るたびに、まるで舞台袖から出る役者のように深呼吸をし、カボチャはひと声ごとに大げさな感想を添える。インゲンは早口で進行を急かし、ニンジンは土から抜かれる瞬間だけ妙に高い声を上げた。 「こら、いちいち演出するな」 「演出ではありません、緊張です」 ピーマンが真面目くさって答える。 そのやり取りに、思わず笑いが漏れた。確かにうるさい。だが、ただ迷惑なだけなら、こんなふうに気持ちがほどけることはない。声には、それぞれの育ち方が滲んでいた。雨を待った日も、強い日差しに耐えた日も、土に根を張って黙っていた時間も、すべてが収穫の瞬間に溢れ出ている。 俺は倉庫の前に小さな風鈴を吊るした。古い竹でできた控えめな音は、強い声を消すほどではない。けれど、重なりすぎる響きを少しやわらげるにはちょうどよかった。風が吹くたび、涼しい音が畑を渡り、野菜たちの声の輪郭を整えていく。 「悪くないわね」 トマトが珍しく素直に言った。 「今日は言うことがまともだな」 「失礼な。僕だって学ぶんだよ」 その夜、俺は収穫した野菜を納屋へ運び終え、最後に畑を見回った。空になった畝は寂しいはずなのに、どこか満ち足りて見える。土の匂いの奥に、古い記録で読んだ言葉がまだ息をしていた。言葉を宿しやすい土。先祖が守り、俺が受け継いだ土地。そこでは、黙って実ることと、最後にしゃべることが、同じくらい自然なのかもしれない。 翌朝、再び収穫を始めると、トマトが少しだけ落ち着いた声で言った。 「今日は静かにいけそうだね」 「静かには無理だろう」 俺が笑うと、キュウリが葉を揺らした。 「でも、前よりうまくやれてる」 ナスは最後まで意味深に黙っていたが、箱へ収める直前にだけ、低く言った。 「畑は、騒がしいくらいがちょうどいい」 俺はその言葉を聞きながら、風鈴の鳴るほうへ目をやった。完全に問題が消えたわけじゃない。だが、消すべきものでもなかったのだろう。収穫のたびに少し騒がしくなり、少し笑って、少し疲れて、それでも畑は続いていく。 「次はどの畝からだ」 そう尋ねると、トマトが待ってましたとばかりに声を弾ませた。 「もちろん僕から。主役だからね」 「順番だと言っただろ」 言い返しながら、俺はもう一度笑った。騒がしくて、面倒で、妙に温かい夏だった。だがその騒がしさごと、この畑はようやく俺のものになった気がした。

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