「全部、知ってるのか」 高梨拓人がつぶやくと、棚の上のトマトたちは揺れながら、勝ち誇ったように声を重ねた。 『もちろん』 『だって、守りたいもん』 業者風の男は一歩下がった。倉庫の空気が、さっきまでとは別のものに変わっている。未希はすぐに端末を構え、低く言った。 「今の、逃がさない」 「おい、何を撮ってる」 男が封筒を握り直した瞬間、未希は迷いなく録音データを再生した。選果場での声、排水路で拾った証言、偽造ラベルのこと、特定の畝だけに散布した痕跡。断片だったはずの記録が、ひとつの筋になって男へ突きつけられる。 『夜に土をいじってる』 『袋みたいなの、運んでた』 『ラベルも偽物』 野菜たちの声は、まるで倉庫じゅうに貼られた告発文みたいだった。男の口元が引きつる。 「勝手なことを……」 「勝手なのはそっちだろ」 拓人は、積み箱の隙間をにらんだまま言い返した。 「農園を安値で手放させるために、ずっと細工してたのか」 男は何も答えない。その沈黙が、かえって肯定みたいに重かった。 そのとき、倉庫の奥で、今までより低く鈍い音がした。どん、と、床板の下から何かがぶつかるような響き。トマトたちの声が、一斉に高くなる。 『まだ終わってない!』 『井戸だよ、井戸!』 『封印、壊れかけてる!』 拓人は息を呑んだ。男のことを追い詰めたはずなのに、野菜たちの声はそれ以上の焦りを帯びている。 「おい、どういう意味だ」 『あそこが、危ないの!』 『土地の奥が、また開きかけてる』 未希の顔からも血の気が引いた。 「録音、止めないで。今のも全部残す」 男は唇を噛み、封筒を落としかける。拓人は揺れる箱を押さえながら、倉庫の外へ続く闇を振り返った。さっきまで追い詰めていたはずの不正よりも、もっと古くて、もっと深い何かが、今まさに蠢いている。 トマトたちはまだ叫んでいた。 『早く、行かなきゃ』 『間に合わない』 拓人は未希と目を合わせる。録音データは回り続け、倉庫の奥の床下では、見えない封印がきしむように震えていた。
しゃべる野菜の収穫日
全年齢小説ID: cmnhb9fo3005p01o7jun5uhh0
