エラベノベル堂

のろまな亀、真相を追う

全年齢

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2章 / 全10

慎吾の袖を握ったまま家に戻ったとき、彩は自分の指先がまだ少し冷えているのを感じていた。玄関の鍵を回す音がやけに大きく響く。いつもの見慣れた部屋に入っただけなのに、胸のざわつきは消えない。 「彩、顔色が悪い」 「そんなことない。ちょっと疲れただけ」 「本当に?」 心配そうに覗き込まれて、彩は曖昧に笑った。彼の気遣いはいつもまっすぐで、だからこそ今は目を合わせるのがつらい。鞄を下ろし、上着を脱ごうとした、そのときだった。 郵便受けを開けたままにしていたことを思い出し、彩は廊下へ引き返す。そこに、白い封筒が一つ、ぽつんと落ちていた。 「これ……」 慎吾が後ろから声をかける。 彩は封を見つめた。差出人の名前はない。ただ、触れた紙の感触が妙に古い。嫌な予感が、喉の奥に薄く張りついた。 「誰かのいたずらかな」 「開けてみる?」 慎吾の言葉にうなずき、彩は封を切った。中から滑り出たのは、少し色あせた写真と、短いメモだった。 写真は暗い現場を切り取ったものだった。目を背けたくなるほど古びているのに、そこに写る光景だけは妙に鮮明で、彩の父が倒れていたあの夜を思い出させた。 彩の息が止まる。 「そんな……」 震える指で裏面を探ると、見覚えのある小さな印があった。慎吾が持っている小物につけていたものと、同じ形だった。 「これ、慎吾の……?」 言葉にした瞬間、心臓が強く跳ねた。 慎吾は写真を見て、すぐに首を振る。 「違う。俺は知らない」 その否定はまっすぐだった。なのに、彩にはもう届かなかった。メモに書かれたたった一行の文字が、頭の中で何度も反響する。あの夜を知る者しか書けない、冷たい手触りのある言葉。 父を殺したのは、慎吾だ。 そう思った途端、目の前の優しい顔が、遠い誰かのものに見えた。 「彩、落ち着いて」 「落ち着けない!」 自分でも驚くほど強い声が出た。慎吾が一歩近づく。その気配に、彩は反射的に写真を胸に押し当てた。 信じたい。けれど、信じられない。 父の命日が近い今になって、こんなものが届くなんて。偶然で済ませられるはずがない。 彩の中で、何かが静かに折れた。 「……私、確かめる」 「彩?」 「もし本当にあなたが知ってるなら、私、許さない」 慎吾の表情が凍る。彩はその顔から逃げるように封筒を握りしめた。玄関の向こうで夜の空気が冷たく揺れている。 復讐する。そう決めた瞬間、怖さより先に、熱が灯った。 彩は靴をつかむように履き、扉を開ける。 「彩、待て」 呼び止める声を背に受けながら、彼女は家を飛び出した。慎吾がどこへ向かうのか、今すぐ追わなければならない気がした。

2章 / 全10

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