エラベノベル堂

落語部の昼下がり

全年齢

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4章 / 全10

放課後の廊下は、購買帰りの足音と、紙袋の擦れる音でやけに落ち着かなかった。陽奈は紬と莉奈の間に立ちながら、さっきまで見ていたメモをもう一度指で押さえる。 「持ち時間、こんなに短いの」 思わず口にすると、紬がうなずいた。 「文化祭って、広く見えて案外シビアなんだね。短く、でもちゃんと笑わせる必要がある」 「長い話でじわじわ来る余裕、ないってことか」 莉奈が肩をすくめる。 「じゃあ、最初から飛ばす? 転失気みたいに、聞き違いで一気に転がすとか」 陽奈はぱっと顔を上げた。 「それ、ありです。聞き違いなら、みんな入りやすいし」 「うん。しかも、古典の型も借りられる」 紬は少し考えてから、廊下の端を見やった。 「ただ、焦点は一つに絞らないと散るね」 「じゃあ、薬の名前を聞き間違えたとか」 「そこまではいい。けど、誰がどう間違えるかで、もう少し膨らませたい」 莉奈は指先で空中に円を描く。 「たとえば、聞いた本人が勝手に大ごとにして、周りが巻き込まれる感じ?」 「それだと面白いけど……」 陽奈は言いかけて、ふと続けた。 「でも、購買前だと人の出入りが多くて、話のきっかけも増えそうです」 「増えそう、じゃなくて増える」 莉奈がにやっとする。 「増えたら増えた分だけ、オチも必要になる」 紬は苦笑した。 「そこなんだよね。短いのに、ついあれもこれも入れたくなる」 陽奈も同じ気持ちだった。聞き違いの一言から始めれば簡単そうなのに、想像すると想像するだけ、登場する顔が増えていく。誰かが勘違いし、誰かが真面目に取り合い、誰かが横から茶々を入れる。気づけば、一本の短編より長い騒ぎになっていた。 「じゃあ、いったん部室戻ろう」 紬がメモを折りたたむ。 「廊下だと、話が広がりすぎる」 「広がるのは悪くないけど、今日はまとめる日だね」 莉奈は伸びをして、購買袋をぶら下げたまま歩き出す。 「戻って、縮めて、またちょっと膨らませる。落語って面倒くさい」 「面倒だから面白いんじゃない」 「紬、それ言うと急に格好いい」 「今さら?」 陽奈は二人のやり取りに笑いながら、短い持ち時間の中で何を残すかを考えた。広げるだけなら簡単だ。けれど短いからこそ、聞き違いの一発で空気をひっくり返したい。部室に着いたら、最初の勘違いだけを軸に、余計な枝を切る。それでも、きっとまた笑ってしまうだろう。 廊下の端で購買の列が少し伸び、誰かの声が重なった。陽奈はそのざわめきを振り返り、ほんの少しだけ口元を上げる。 「今の、ネタの種にはなりそうです」 「うん」 紬が歩幅を合わせる。 「でも今日は、持ち帰ってから育てよう」 莉奈が手すりを軽く叩いた。 「決まり。部室で再構成会議ね」 三人は並んだまま、笑いの形を探しに廊下の先へ向かった。

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