エラベノベル堂

落語部の昼下がり

全年齢

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6章 / 全10

昼より少し遅い光が、空き教室の窓を白く曇らせていた。机を寄せて作った即席の舞台の前で、陽奈は台本を両手で押さえたまま、そっと息をつく。 「……通したら、なんか違う」 言葉にした瞬間、空気がぴんと張った。紬はページの端を指でなぞり、莉奈は椅子の背にもたれたまま眉を上げる。 「違うって、どのへん?」 「全部が悪いわけじゃないんだけど」 陽奈は悔しそうに笑った。 「一つ一つは面白いのに、一本の話になってない。わたしが勢いで押して、紬がきっちり整えて、莉奈が横から広げるせいで、別々の小噺みたいになる」 「つまり、ばらばら」 莉奈があっさり言う。 「言い方!」 「でも事実ではあるね」 紬は静かにうなずいた。 「短くまとめようとして、逆に持ち味が浮いてしまったのかも」 そのとき、教室の後ろで、ずっと見守っていた顧問が椅子を鳴らして立ち上がった。派手な言葉はないのに、妙に場を落ち着かせる声だった。 「失敗した話を、最初から上手に隠そうとする必要はないよ」 三人が顔を向ける。 「客はね、完璧な話より、少し空回りしているくらいの方に親しみを覚える。うまくいかなかった部分を消すより、そこを受け入れて笑いに変えた方が、話は生きる」 陽奈は台本を見下ろした。昨日まで必死に整えたはずのせりふが、急に作り物みたいに見えてくる。 「……空回りを、そのまま?」 「そう。君たちが焦ったり、噛み合わなかったりしたところを、無理に修正しすぎない。むしろそれが客にはいちばん見えやすい」 紬が小さく息をのんだ。 「失敗談を、題材にする」 「うん。失敗を恥ずかしいものにしないで、先に笑ってしまう。そうすると、聞く側も安心する」 莉奈はぱらぱらと台本をめくり、にやっとした。 「じゃあ私、ちょっとずれてるところを、もっとずらしてもいいってこと?」 「勝手に増やさないでください!」 「でも、方向は合ってるでしょ」 紬は唇を緩めた。 「たしかに。私たちの空回りそのものを見せるなら、つながりの悪さも一つの味になる」 陽奈は勢いよくうなずいた。 「じゃあ、直すんじゃなくて、受け入れて笑いにする。最初から、私たちの変なところ込みで一席にするんだ」 「そういうこと」 顧問はそれだけ言って、また静かに座り直した。 空き教室の中で、三人は台本を見つめ直す。陽奈の勢い、紬の細かさ、莉奈の遊び心。そのどれもが邪魔だったのではなく、今までは別々の方向へ走っていただけだ。 「よし」 紬が新しいページを開く。 「失敗したところ、勘違いしたところ、言い過ぎたところ。それを先に笑える形にしよう」 「いいね」 莉奈が指を鳴らす。 「空回りを隠さない方が、むしろ親しみが出るってわけだ」 陽奈は台本の一行目に視線を落とし、口元を上げた。 「だったら、次はわたしたちの失敗から始めよう。ちゃんと笑えるように」 窓の外で、文化祭準備のざわめきが遠く揺れていた。三人はまだ台本を手にしたまま、次にどう空回りを並べるかを考え始めていた。

6章 / 全10

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