エラベノベル堂

落語部の昼下がり

全年齢

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9章 / 全10

文化祭の成功から一夜明けた部室は、片づけきれなかった熱だけを薄く残していた。窓を開けると、秋の風が座布団の端を持ち上げる。私は台本を返そうとして、思わず足を止めた。表紙の隅に、昨夜までなかったはずの紙片が挟まっている。 先輩はそれを見て、妙に静かな顔になった。 「読んでみろ」 紙には一行だけ、達筆な字があった。あなたたちの高座、うちの学校で聞きました。続きが気になります。図書室の奥で待っています 「図書室?」 と私がつぶやくと、同級生の女子が目を丸くした。 「うち、そんな依頼来てた?」 男子は首をひねる。 「借りた台本、昨日返したよな」 先輩は扇子を閉じた。 「いや、返したのは別のだ」 その瞬間、部室の空気がひっくり返った。昨日の赤い印の台本は図書室の貸出用で、私たちが返したつもりのものは、実は舞台用の控えだったらしい。しかも、その控えに挟まっていた紙が、知らない誰かの手に渡っていた。 「どういうことですか」 「つまりだ」 と先輩は、珍しく言葉を選んだ。 「本が勝手に客を連れてきた」 そんな馬鹿なと思ったのに、図書委員の一年生が扉の前に立っていた。昨日の拍手の中にいた子だ。手には、見覚えのある古い落語全集がある。 「昨日の演目の元の話、ここにありました。違う噺かと思って読んだら、もっと違う場所に飛んでいって」 彼女は少し照れたように笑った。 「学校の図書室って、静かすぎて眠る場所だと思ってました。でも、噺って本の中で生きてるんですね」 私は胸が熱くなった。笑いは客席で終わるものだと思っていたのに、ここではページの向こうへ跳ね返ってきている。 先輩が立ち上がり、扇子で本の背を軽く叩いた。 「なら次は、借りた人全員を高座に連れてこよう」 「それ、無茶じゃないですか」 「無茶でもやる。落語部はそのためにある」 すると男子が、床に置いた座布団を抱え上げた拍子にバランスを崩し、図書室の本を一冊、ぽとりと落とした。皆が息をのむ。だが本はたまたま開いたページで止まり、そこには今日の紙片と同じ一行が印刷されていた。まるで合図みたいに。 私は笑ってしまった。失敗が失敗の顔をやめる瞬間を、また見た気がしたからだ。先輩は満足そうにうなずき、同級生の女子はすぐに次の噺の構想を口にする。図書委員の一年生は、目を輝かせたまま本を抱え直した。 その日、私たちは部室を飛び出し、図書室へ向かった。静かな廊下の先で待っていたのは、返却期限でも成績でもなく、もう一つの高座だった。私は扇子を握り、息を整える。日常は終わらない。むしろ、こうして誰かの続きを呼び込んでいく。そう思うと、次の一言が自然に口へ乗った。

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