エラベノベル堂

卵かけご飯論争部

全年齢

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5章 / 全10

放課後の廊下は、家庭科準備室の前だけ妙にざわついていた。窓の外では運動部の掛け声が遠のき、残った足音が床に硬く響く。公平が紙箱を抱え直したそのとき、職員のひとりから短く声が飛んだ。 「動物の持ち込みは困るからね」 その一言で、部員たちの動きが止まる。結衣は唇を結び、奏は思わず箱を見た。中のニワトリは事情も知らず、羽を小さく震わせている。 「困る、か」 公平は低くつぶやいた。責める調子ではない。ただ、現実の重さを受け止める声だった。 「当たり前だよな。学校だし、迷惑になるのも分かる」 「分かるなら、次はどうするの」 結衣がすぐに返す。 公平は箱の縁に手を添えた。 「俺が責任を持つ。世話をする。放っておけないなら、ちゃんと理由を言える形にする」 奏が目を細める。 「言うのは簡単だけど、通るとは限らないぞ」 「だから、通す準備をする」 その言葉に、廊下の空気が少しだけ変わった。花歩が小さく息をのみ、紗希はいつもの調子で口元を上げる。 「いいじゃない。責任って、気合だけじゃなくて手順でも示せるものだし」 結衣はしばらく黙っていたが、やがて箱の中の白い首を見て、静かに言った。 「弁論部の伝統って、毎日同じ題材をこね回すことだと思ってた。でも違うのかも」 公平が振り向く。 「どういう意味だ」 「同じ問いを続けるのは、ただ飽きないためじゃない。何が変わっても、ちゃんと考え直せるようにするためだったのね」 その言葉は、廊下の端に落ちた夕方の光みたいに、まっすぐだった。 奏が腕を組んで笑う。 「たしかに。卵かけご飯の話しかしてなかった部が、いつの間にか生き物の世話まで論じてるんだもんな」 「論じてるだけじゃないわ」 結衣は小さく首を振った。 「守るかどうかまで、もう始まってる」 公平はその言葉を聞いて、箱を抱く腕に力を込めた。 「じゃあ、説得の準備だな」 「何を言うつもり?」 紗希が身を乗り出す。 「まずは、勝手に連れてきたわけじゃないってこと。次に、ちゃんと世話をすること。最後に、ここでなら考える意味があるってことだ」 「弁論部らしい」 「それしかないだろ」 誰かが笑い、誰かがうなずく。家庭科準備室の前なのに、そこだけ討論会の始まりみたいだった。公平は一度だけ深く息を吸い、箱の中で落ち着かない様子のニワトリを見た。 「よし。言い訳じゃなく、筋の通る話をしよう」 結衣が静かに頷く。 「そのための部活だものね」 廊下の先で、職員の足音がまた近づいてきた。公平は背筋を伸ばし、部員たちもそれぞれの表情を引き締める。説得の言葉はまだ完成していない。けれど、もう逃げる気は誰にもなかった。

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