エラベノベル堂

卵かけご飯論争部

全年齢

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5章 / 全10

校長室からの呼び出しは、紙一枚で十分だった。真白が封筒を開けた瞬間、部室の空気は一段冷えた。裏庭の件は、すでに職員会議で話題になっているらしい。動物の持ち込み、衛生管理、校内の秩序。どれも正しい言葉なのに、並べられると胸の奥をきつく締めつける。蒼は机の縁を握りしめ、奏は目を伏せた。悠だけが、妙に落ち着いた顔で封筒の文面を読み返している。 「明日の昼、説明する場をもらった」 真白が言うと、蒼が顔を上げた。 「説明って、謝るだけで終わるのか」 「終わらせたくない」 その返答に、悠が小さく笑った。 「だったら弁論部らしくやろう。負けるかもしれないけど、黙るよりはましだ」 だが奏は首を振った。 「でも、相手は先生たちだよ。感情で押したら、ただの迷惑になる」 「感情じゃない」 真白は言った。 「私たちは、何を食べるかを語ってきたんじゃない。どう暮らすかを言葉にしてきたはずだ」 その一言で、部室の沈黙が少し変わった。蒼は息を飲み、悠は視線を落とす。誰も反論しない。ただ、考え方の違いがはっきりした。守りたいものが同じでも、守り方はひとつではない。部の存続を優先して頭を下げるべきだという奏と、ここで引けば議論そのものが嘘になるという真白。悠はその間で揺れ、蒼は何度も口を開いては閉じた。 昼休み、予想外の呼び出しがもうひとつ届いた。養鶏場から来たという女性が、会議室で待っているという。真白たちが駆けつけると、そこにはあのニワトリを迎えに来た娘がいた。彼女は深く頭を下げ、あの鳥が実は一度逃げ出した後、近くの学校へ迷い込んでいたことを説明した。さらに、卵の扱いに関するパンフレットを差し出し、校内で話し合うなら協力したいと言う。 拍子抜けするほど穏やかな声だった。だがその穏やかさが、真白にはかえって痛かった。自分たちは守るつもりで閉じこもっていたのに、外ではもっと広い話が始まっていたのだ。 その日の放課後、部員たちは初めて本気でぶつかった。卵かけご飯のぜいたくさを語る言葉は、もう単なる食の議題ではない。学校に対してどう説明するか。誰かの善意をどう受け取るか。伝えるべきなのは事実か、気持ちか、それとも両方か。真白と奏の声が重なり、ずれ、また重なった。最後に口を開いたのは蒼だった。 「ぼく、食べ物のことを話したいんじゃなくて、食べる前にちゃんと誰かを思いたいんだ」 その言葉で、悠がふっと息を吐いた。負けたくない気持ちと、わかってほしい気持ちが、ようやく同じ場所に座る。窓の外では夕日が傾き、空の色が卵の黄身みたいに柔らかく滲んでいた。真白は机の上の手帳を閉じる。明日の答えは、まだ一つに決まらない。けれど、迷ったままでも言葉は前へ進める。そう思えたことだけが、この夜の確かな収穫だった。

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