エラベノベル堂

卵かけご飯論争部

全年齢

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6章 / 全10

廊下の空気が、妙に張りつめていた。公平は資料の束を抱え直し、結衣は説明用のメモを指先でそろえる。奏は配布プリントの角を押さえ、紗希は何かあった時にすぐ口を挟めるよう、少し前に出ている。昨日までの勢いだけでは通らない。だから今日は、ちゃんと筋道を立てるつもりだった。 「これで、いけるはず」 公平が小さく言うと、結衣が横目で見た。 「はず、ね。そこはもっと言い切っていいんじゃない」 「言い切るには、まだ先生の顔を見てない」 「慎重なのはいいけど、弱気に聞こえるのは損よ」 奏が苦笑する。 「結衣のそれ、励ましじゃなくて追い込みだろ」 「励ましてるのよ。わかりやすくね」 そんなやり取りの隙間を、軽い羽音が抜けた。 紙箱の中で落ち着いていたはずのニワトリが、突然ばさりと身を起こしたのだ。 「えっ」 公平が反射的に手を伸ばすより早く、白い影が箱の縁を飛び越えた。床を蹴った小さな足が、廊下を一気に走る。 「待て!」 奏の声が響いたが、もう遅い。ニワトリは職員室へ向かう角を鋭く曲がり、そこに積まれていた提出書類の束へ突っ込んだ。 紙が舞った。 きっちり揃えたはずの配布物が、風にほどけるみたいに散っていく。公平は資料を落とさないように踏ん張りながら、思わず目を見開いた。 「うそだろ……!」 「嘘じゃない、現実よ!」 結衣が叫び、床に散らばった紙を追う。 ニワトリは自分が何をしたか分からない顔で、今度は廊下の端へ駆け戻り、さらに別の紙束の間をすり抜けた。あちこちで職員の足音が止まり、誰かが小さく息をのむ気配がする。 「まずい、まずいって!」 紗希が笑いをこらえながらも必死にしゃがみ込んだ。 「説得以前に、現場が荒れた!」 「笑うな、手伝え!」 公平は叫びながら、ばらけた資料を追いかけた。説明用の紙、申請書、当番表。さっきまで完璧に整っていたはずのものが、廊下の白い光の中で全部ごちゃまぜになっている。 ニワトリはその中心で、まるで自分が騒動の主役だと知っているみたいに、きょとんと首をかしげた。 結衣が一枚を拾い上げて、ため息をつく。 「これ、もう最初からやり直しじゃない」 公平は散らばった紙の山を見つめ、喉の奥で息を詰めた。 計画は崩れた。だが、崩れたまま終わらせるわけにはいかない。彼は落ちた資料を拾い上げながら、逃げた白い影を見失わないように顔を上げた。 「……追うぞ」 その一言に、部員たちの視線がそろう。廊下の先で、ニワトリはもう一度だけ羽を震わせ、今度は別の方向へ走り出した。

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