エラベノベル堂

卵かけご飯論争部

全年齢

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6章 / 全10

翌朝、真白が部室に入ると、空気が妙に軽かった。けれどそれは安心ではない。机の上に置かれた封筒が、昨夜の話し合いをまだ終わらせていない証みたいにそこにあった。校長室への説明は翌日だと聞かされている。猶予があるようで、ない。蒼は椅子に座ったまま足を揺らし、奏は手帳を開いては閉じている。悠だけが窓の外を見ていた。 「守るって、何を?」 蒼がぽつりと漏らした。 真白は答えに詰まる。ニワトリそのものか、部の面目か、食べ物を大切に思う気持ちか。昨夜までなら、全部守ると即答しただろう。だが今は違う。守りたいものが増えるほど、手の中からこぼれるものもある。 その沈黙を破ったのは、扉の向こうから聞こえた軽いノックだった。入ってきたのは、校長でも教師でもない。見知らぬ青年が一人、手に紙袋を提げて立っていた。養鶏場の関係者だと名乗り、昨日の説明の続きがあると言う。彼は袋から一枚の写真を取り出した。そこには、裏庭で見つかったニワトリとよく似た鳥が、畑の小屋の前で穏やかに羽を休めている姿が写っていた。 「その鳥、迷い込んだんじゃない。自分で戻ってきたんです」 一同が息をのむ。青年は続けた。あの鳥は以前から、人の手を怖がりながらも、なぜか校舎の近くをうろつく癖があったという。近所の子どもたちが落とした米粒をついばみ、夕方になると必ず外れの道を通っていた。まるで、何かを確かめるように。 奏が眉を寄せる。 「では、学校にいたのは偶然じゃなかったんですか」 「偶然半分、縁半分です」 青年は少し笑った。 「でも、迷い込んだ先で誰かが世話をした。それが大事なんです」 その言葉で、真白の胸に冷たいものと熱いものが同時に落ちた。自分たちは鳥を保護したつもりでいた。けれど本当は、鳥に自分たちの議論を試されていたのかもしれない。卵かけご飯はぜいたくか。そんな問いの裏で、もっと大きな問いがずっと待っていたのだ。知らないものに手を伸ばす勇気はあるか。見つけた温もりを、自分のものだと決めつけずに差し出せるか。 青年はさらに、明日の説明会に参加したいと言った。卵や鶏のことだけではなく、食べることをめぐる責任について、外からも話せることがあると。 昼休み、部員たちはあらためて資料を広げた。守るべきは沈黙ではない。伝えるべきは、勝った証拠でも、言い負かした快感でもない。真白はゆっくりと口を開いた。 「明日は、私たちが見たことをそのまま話そう。かわいそうでも、面白いでも終わらせない。迷い込んだ鳥が、食べることの外側にあるものまで連れてきたって」 蒼は大きくうなずいた。悠は紙袋の中の米菓を一つつまみ、妙に真剣な顔で言う。 「じゃあ、最後は何を食べるかじゃなく、誰と向き合うかだな」 その言葉に、真白は思わず笑った。だが笑いながらも、胸の奥では別の輪郭がはっきりしていく。明日、校長室で何を言われてもいい。けれどもう、部室は以前と同じではいられない。ニワトリが運んだのは卵ではなく、言葉の出口だった。

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