校長室での説明は、予想していたより静かに始まった。真白が資料を置き、奏が衛生面の記録を示し、蒼が裏庭での経緯を順に話す。悠は最後まで黙っていたが、相手の視線が厳しくなるたび、机の端を軽く叩いて呼吸を整えた。注意されるのは覚悟していた。けれど、扉の向こうから現れた養鶏場の女性が頭を下げた瞬間、空気が少し変わった。彼女は、迷い込んだ鳥を責めないでほしいと言い、学校で保護されていた間の記録が、かえって世話の手本になるとまで言ったのだ。 真白は胸の奥で何かがほどけるのを感じた。責任を問われる場で、責任を分け合う言葉が返ってくるとは思わなかった。だが、安堵は長く続かない。校長が一枚の紙を差し出したのだ。それは部の活動報告書で、題名には卵かけご飯のぜいたくについて、とだけある。提出を求められた瞬間、蒼が思わず顔を上げた。 「結論を書けということですか」 校長は首を振った。 「結論より、君たちがどう考えたかだ」 部室に戻った四人は、そこで初めて本気で黙り込んだ。書けるのは答えではない。揺れたこと、迷ったこと、守りたかったのに守りきれなかった気持ち。それらを並べるうち、真白は気づく。自分たちは勝ち負けを語ってきたのではなく、毎日の食卓に手を合わせる理由を探していたのだと。悠は珍しく箸を置き、ぽつりと言った。 「ぜいたくってさ、ひとりで抱えるものじゃないのかもな」 その一言で、誰も反論しなかった。蒼は笑ってうなずき、奏は報告書の空欄を埋め始める。やがて放課後、全校集会の舞台に立った真白は、卵かけご飯の値段も、鳥の行方も、正解としては語らなかった。ただ、当たり前に見える朝食の向こうに、手を差し出した人の数があること、食べることは誰かとつながることだと伝えた。最後に悠が持ってきたのは、卵でも米でもなく、部員たちが書き損じた原稿の束だった。会場は笑いに包まれ、笑いの中に、少しだけ涙が混じった。 それから数日後、弁論部の新しい題目が黒板に書かれる。豆腐はぜいたくか。真白はチョークを置き、空になった椅子を見て微笑んだ。答えを急がなくてもいい。まずは、また言葉を交わすところから始めればいいのだから。
卵かけご飯論争部
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