エラベノベル堂

卵かけご飯論争部

全年齢

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8章 / 全10

放送室の扉を開けた瞬間、むっとした機械の熱と、古い机の埃っぽさが鼻をくすぐった。公平はマイクの前に立ち、手のひらの汗をこっそり制服にこすりつける。背後では結衣が原稿を持ち、奏がミキサーのつまみをにらみ、紗希が窓際で外の様子をうかがっていた。 「ええと、本日校内で見つかったニワトリについて、弁論部からお知らせします」 自分の声がスピーカーを通ると、思ったよりも硬い。公平は喉を整えた。 「現在、安全のため一時的に保護しています。心当たりのある方は、校内の先生までお願いします。あわせて、飼育に関する意見やルール案があれば、ぜひお寄せください」 結衣が小さくうなずく。奏がマイクの横で親指を立てた。 すると、しばらくして返事が来た。いや、返事どころではない。放送室の小さな窓の向こうで、廊下を行き交う生徒たちの足が止まり、各教室から次々に声が上がる。静かな応援、厳しめの指摘、妙に熱のこもった提案まで、校内の空気が一斉にざわめいた。 「保護したなら、ちゃんと名札を付けるべきだと思う」 「え、じゃあ世話当番はどう分けるの」 「卵かけご飯の議論に戻るなら、やっぱり飼育の負担も考えるべきだろ」 「静かに見守る派っていうのもあるぞ。騒ぎすぎないのが大事だ」 「でも可愛いから応援したい」 言葉が次々に飛び込んでくるたび、結衣の目が細くなっていく。 「想像以上ね」 「想像以上だな」 公平も苦笑した。 放送が終わるころには、弁論部の机の上にまで意見の紙が積み上がっていた。卵かけご飯派は味と値段を熱弁し、飼育応援派は餌や居場所の整え方を書き、静観派は落ち着いた運用を求める。どれも違うのに、どれも本気だった。 「これ、討論会というより校内企画じゃない?」 紗希が面白そうに言う。 「最初はただの保護の相談だったのに」 奏が紙を一枚めくって目を丸くする。 「こんなに分かれるの、すごいな。しかも全部、ちゃんと筋が通ってる」 結衣は腕を組み、にやりとした。 「つまり、あの子はもう部の話題じゃないってことね」 公平は集まった意見を見渡した。賛成も慎重論もある。それでも、誰も無関心ではなかった。放送一本で空気が変わるなんて思っていなかったが、変わった以上は受け止めるしかない。 「よし」 公平は紙の束をそっと揃えた。 「次は、この意見をどうまとめるかだな」 その瞬間、廊下の向こうから、また別の声が弾けた。卵かけご飯派と飼育応援派と静観派が、もう机の上の議論では収まりきらない勢いでぶつかり始めている。公平は放送室の小窓を見やり、これが校内規模の人気企画になっていく気配を、背中で確かに感じていた。

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