放課後の校長室は、いつもより窓が大きく見えた。部員四人が並ぶ前で、校長は書類を指先で揃え、低い声で言った。裏庭での動物の保護は、学校として見過ごせない。今すぐ対応してほしい。真白は背筋を伸ばし、蒼は椅子の端を握りしめた。奏は返事の前に一度だけ目を閉じ、悠は唇を結んだ。 「もちろん、元の場所に返します」 真白が言うと、校長はうなずいた。だが次の瞬間、続いた言葉に四人の呼吸が止まる。部としての活動報告も、提出してもらう。しかも、テーマは卵かけご飯がぜいたくかどうか。学校にふさわしい説明を、文書で示せと。 部室へ戻る道すがら、誰も口を開かなかった。扉を閉めた途端、蒼が机を見つめたまま言う。 「やっぱり、僕たちの話は変だったんだろうか」 奏は首を振る。 「変かどうかじゃない。伝わる形にしなきゃ」 悠がため息をつく。 「でも、学校に合わせた言い方にしたら、本音が薄まる」 真白はその二つの間で立ち尽くした。守りたいのは鳥だけではない。言葉そのものだ。けれど、言葉を守るために全部をぶつければ、部は潰れるかもしれない。 その夜、四人は初めて討論をやめた。代わりに、各自が一枚ずつ紙に意見を書く。真白は卵かけご飯をぜいたくと呼ぶかより、毎日の食卓に目を向ける尊さを書いた。蒼は、安い高いではなく、朝の一杯が人を立たせる力について書いた。奏は、食べ物の背後にある手間と責任を整理した。悠は、ふざけたようでいて、いちばん核心を突く一文を置いた。うまいものは一人で食べても幸せだが、誰かを思いながら食べると、少しだけ世界が広くなる。 翌朝、提出された文書を見た校長はしばらく黙っていた。やがて、意外なことを言う。報告書は受け取る。ただし、部の存続は保留だ。保留、という言葉に蒼が顔を曇らせる。だが校長は続けた。午前中の全校放送で、君たちの話を聞かせてほしい。教室の外へ届くなら、問題は問題のままで構わない。 昼、放送室のマイクの前に立った真白は、原稿を持つ手が汗ばんでいるのを感じた。ところが、話し始める前に隣の悠がふっと笑う。机の上には、誰かが置いた白い卵が一つ。しかもそれは、朝に引き取られたはずのニワトリが残した、最後の贈り物だった。真白は目を見開き、蒼は声を漏らし、奏は小さく息をのんだ。結局、守りたかったものはもう部室の中だけには収まらない。マイクの赤い灯りが点く。真白は深く息を吸い、卵かけご飯がぜいたくかという問いを、少しだけ別の形で語り始めた。
卵かけご飯論争部
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