黒曜会の朝は、依頼書の束を仕分けるところから始まるようになっていた。会議室の机には、昨夜までに届いた手紙が山になっている。駅前の花壇の整備、老舗菓子店の看板修理、倉庫街の騒音対策。どれも地味だが、どれも切実だった。 冬真は封筒の裏を確かめ、依頼人の性格まで読み取る勢いで振り分けていく。黒い外套を羽織った仲間たちは、その横で妙に真剣な顔をしていた。もはや仰々しい名乗りは町の風物詩である。呼ばれれば現れ、黙って困りごとを片づける。最初は悪ふざけに近かった演出も、今では安心の合図になっていた。 午前の仕事は、商店街の共同倉庫に積まれた古い木箱の移動だった。力自慢の構成員が軽々と持ち上げ、聞き上手の者が店主たちの口論をほどいていく。誰かが置き場を間違えたせいで、長く続いていた小さな行き違いも、拍子抜けするほどあっさり解けた。黒曜会はただ荷を運んだだけなのに、帰り際には店主たちが顔を見合わせて笑っている。 昼前、冬真のもとに新しい依頼が飛び込んできた。迷子の犬を探してほしい、という紙切れ一枚の願いだったが、報酬は予想よりずっと弾んでいた。理由を尋ねると、依頼主の若い女性は少し照れたように言う。 「ここに頼むと、見つかるだけじゃなくて、なぜか気まずさまで消えるんです」 冬真は返事に困った。秘密結社としては、評価の方向が少しおかしい。しかし、悪い気はしなかった。むしろ、帳簿の数字が増えるたびに、胸の奥にかすかな達成感が積もっていく。 夕方、会議室に戻ると、壁際の古い機械が低く震えた。かつては資金の心細さを象徴するだけの装置だったのに、今では不思議と頼もしい。赤字はかなり薄まり、維持費の心配も大きく後退していた。 「このままいけば、組織は立て直せますね」 冬真の言葉に、誰もがうなずく。だが次の瞬間、別の構成員が依頼書の束から一枚を抜き出し、首をかしげた。 「ところで、これを見てくれ。町長からだ」 そこに書かれていたのは、秘密結社黒曜会に、市内全域の困りごと相談窓口を任せたい、という予想外の正式依頼だった。署名の横には、先日まで厳しい顔でこちらを警戒していた町長の印がある。誰かが小さく吹き出し、別の誰かが頭を抱えた。 結社の存続は救われた。けれど仕事は、もう単なる副業では終わらない。黒曜会は顔を見合わせ、そして誰からともなく笑い出した。
秘密結社の便利屋
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