翌朝の光は、昨夜までの商店街のざわめきを洗い流したみたいに澄んでいた。公園のベンチに腰を下ろした会長は、目の前のゴミ袋の山を見て、思わず顔をしかめる。 「……なんで、こんなにあるんだ」 「人が集まる場所って、だいたいそういうものです」 副長が淡々と答え、腕まくりをする。若い幹部は軍手をはめながら、看板を立てた。 「正体不明の親切な清掃団体、だって。昨日の占いより怪しいのに、ちょっといい感じです」 「怪しさを褒めるな」 会長はそう言いながらも、長い棒で植え込みの空き缶をつついた。拾っていくそばから、通りすがりの人が足を止める。 「お掃除ですか? 手伝ってもいいですか」 最初に声をかけたのは、買い物袋を提げた近所の主婦だった。会長が返事をするより早く、彼女はしゃがみ込んで、落ち葉を集め始める。 「もちろんです、どうぞ」 副長が即座に頭を下げると、次にベンチの陰から小学生くらいの子どもが二人、目を輝かせて走ってきた。 「ぼくも拾う!」 「こっちのは軽いよ」 若い幹部が空のペットボトルを渡すと、子どもたちは競争でも始めるみたいに動き出した。会長は思わず目を細める。 「待て。そんなに本気でやられると、こっちが悪いことしてるみたいだろ」 「悪いことをしている顔に見えます?」 副長の一言に、会長は口をつぐんだ。見えるわけがない。むしろ、朝日に照らされた軍手は妙にまぶしかった。 通りの向こうでは、八百屋の店主が店先の箒を持ってきた。 「うちの前もやってくれるなら、これ使いな」 「ありがとうございます」 「いやいや、助かるよ。最近、風でゴミがたまって困ってたんだ」 店主が加わると、同じように様子を見ていた人たちも、ひとり、またひとりと輪に入ってくる。誰かが袋を結び、誰かが水を運び、誰かが植え込みの奥を覗き込む。気づけば公園の一角に、妙に手際のいい連携が生まれていた。 「これ、もうただの清掃活動じゃないですか」 若い幹部が小声で言う。 「最初からそのつもりだったのかもしれませんね」 副長は、少し困ったように笑う。 会長はゴミ袋を持ち上げたまま、集まってきた顔ぶれを見渡した。誰も怖がっていない。むしろ、やけに感謝されている。近所の子どもは 「また来てね」 と手を振り、店主は飲み物まで差し出してくる。 「おい、これじゃ収益にならないだろ」 言いながらも、会長の声はいつもより弱かった。 「ええ。でも、街はきれいになります」 副長が答える。 「それで、十分だと?」 「十分ではないかもしれません。でも、始めるには十分です」 若い幹部が帳面を見て、肩を落とした。 「売上、ゼロです」 「今それを言うな」 会長はため息をついたのに、なぜか腹は立たなかった。むしろ、ゴミ袋の口をきゅっと結ぶたび、目の前の通りが少しずつ整っていくのが気持ちよかった。 最後に残った缶を拾い上げると、公園の向こうで子どもが叫ぶ。 「ねえ、次はあっちもやろうよ!」 その一声に、集まった大人たちが笑った。会長は振り向いて、まだ手のひらに残る朝の冷たさを握り込む。 「……仕方ない。今日はここまでにしとくか」 誰も反対しなかった。むしろ、当然みたいに次の袋を持ち上げる。収益を狙ったはずの活動は、いつの間にか街の美化運動みたいな熱を帯びていた。会長はその流れの真ん中で、妙に居心地の悪い満足を感じながら、もう一つゴミ袋を開いた。
秘密結社の便利屋
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