エラベノベル堂

秘密結社の便利屋

全年齢

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5章 / 全10

町長からの正式依頼は、黒曜会の会議室にしばらく妙な静けさを落とした。市内全域の困りごと相談窓口。言葉だけなら立派だが、秘密結社に任せるにはあまりに正面からすぎる。冬真は紙を持ったまま、何度も署名を見直した。 「これは、信用されているということでしょうか」 「信用されすぎていないか」 誰かがそう返し、やがて皆で吹き出した。警戒される存在として始めたはずが、いまや町の公式な助っ人に近い。しかも、相手は本気だった。祭りの段取り、商店街の空き店舗、学校帰りの子どもたちが安心して通れる道筋まで、相談は次々に届く。地味だが数が多い。だが黒曜会は、そういう面倒を片づけるたびに、少しずつ腕を上げていた。 翌日から、彼らは町のあちこちを巡ることになった。仰々しい名乗りと黒い外套はそのままに、やることは看板の修理や段差の補修、こじれた話し合いの仲裁だった。妙に重厚な登場と、きわめて親切な仕事。その落差が人々の警戒を和らげ、相談は相談を呼んだ。困りごとは放っておくと大きくなるが、早めに触れれば案外軽い。そんな当たり前を、彼らはようやく商売にしたのだ。 冬真は帳簿をつけながら、ふと笑った。赤字はすっかり消え、維持費の不安もなくなっていた。それでも依頼は減らない。むしろ増える一方だ。儲けを求めて始めたはずの仕事が、町の呼吸そのものを整えはじめている。 「まさか、こんなにうまくいくとはな」 「悪事を働くより、よほど性に合っていたんだろう」 そう言われて、誰も否定できなかった。人を驚かせる演出は得意でも、傷つけるような真似はどうにも苦手だったのだ。けれど、役に立つとなれば話は別だ。人の笑顔や安堵が返ってくるたび、結社の面々は妙な充実感に満たされた。 その夜、黒曜会は新しく届いた依頼書の束を前に、いつものように顔を見合わせた。資金難は終わった。だが終わったからこそ、次の一歩が始まる。秘密結社は、世界を少し良くしてしまう商売の味を覚えてしまった。もはや誰にも止められない。

5章 / 全10

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