エラベノベル堂

秘密結社の便利屋

全年齢

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6章 / 全10

町長の正式依頼が届いてから、黒曜会は町の裏通りから表通りへ、さらに人の集まる場所へと活動範囲を広げていった。黒い外套に仰々しい名乗りを添えて現れると、最初こそ身構えられる。だが、扉の蝶番を直し、雨漏りをふさぎ、こじれた会話の間に静かに入っていくうちに、町の人々の目つきは柔らかく変わっていった。あの集団は怪しいらしい、けれど頼むと必ず片づく。そんな評判が、いつしか安心の印になっていた。 冬真は依頼の記録をつけながら、増え続ける名前の列を見ていた。商店街の配置換え、古い掲示板の修繕、離れていた親戚同士の再会の段取りまである。どれもささいに見えて、放置すれば誰かの一日を曇らせる。構成員たちはそれぞれ得意分野を持ち、力仕事に回る者は驚くほど丁寧で、聞き役に回る者は相手の喉に引っかかった言葉をすくい上げた。秘密結社としては少しおかしいが、仕事ぶりは町でいちばん真面目だった。 ある日、学校帰りの子どもたちが渡りづらそうにしていた細い道を、黒曜会が一晩で明るく整えた。翌朝、通りは前よりずっと歩きやすくなり、近所の店先には自然と人が集まった。別の場所では、長く売れ残っていた野菜を使った簡単な催しが企画され、気まずい空気で止まっていた商人たちが、気づけば同じ鍋を囲んでいた。誰かの困りごとをひとつ片づけるたび、町の別の場所でも、別の結び目がほどけていく。 会議室に戻るころには、機械の唸りさえ少し誇らしげに聞こえた。帳簿の赤は消え、維持費の心配も遠のいている。それでも依頼は減らない。むしろ、評判が評判を呼んで、黒曜会は町の相談を一手に引き受けるようになっていた。 「稼ぐつもりだったのに、変ですね」 冬真がそう漏らすと、誰かが肩をすくめた。 「でも、嫌ではないだろう」 その通りだった。悪事よりずっと面倒で、ずっと気を使う。それなのに、終わったあと胸に残るのは、妙な達成感だった。ある夜、机の上に置かれた新しい依頼書には、町長の印に加えて、見覚えのない小さな花の押し印があった。読んでみると、町の外れに住む老人が、黒曜会に礼を言いたいから今度は家族ごと招きたい、とある。 秘密結社は顔を見合わせた。危ない商売を避けたはずが、いつの間にか歓迎される側になっている。冬真は思わず笑い、封筒をそっと閉じた。予想外だったのは、金でも評判でもない。彼らが始めたのは副業のはずなのに、町そのものが少しずつ、彼らの手で前向きに変わり始めていた。

6章 / 全10

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