エラベノベル堂

秘密結社の便利屋

全年齢

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6章 / 全10

週末の体育館は、いつもの運動音よりも人のざわめきが先に響いていた。床に引かれた白線の上には、黒い布で覆われた壇上もどきが置かれ、そこだけ妙に重々しい。なのに、近づいてみれば飾りはやけに整っていて、会長は腕を組んだまま眉をひそめた。 「……秘密めかしたいのに、妙に親切だな」 「親切じゃないと、誰も来ませんから」 副長が平然と返す。若い幹部は配布用の紙束を抱え、胸を張った。 「今回は儀式風ショーです。見た目は怪しく、中身は安心。完璧ですね」 「完璧の方向が違う」 会長が吐き捨てると、会場の入口から次々と参加者が入ってきた。近所の家族連れ、商店街の人、前に占いを受けた顔までいる。誰も怯えていない。それどころか、少し楽しそうだ。 壇上に立った副長が、低く声を落とした。 「これより、結社の儀式を開始します」 その瞬間、照明が一段暗くなる。ざわ、と空気が揺れたが、不安より先に、全員が息を合わせるみたいな静けさが生まれた。 「まず、深呼吸をしてください。次に、足元の確認です」 「え、そこから?」 誰かが笑い、周囲もつられて肩の力を抜く。 若い幹部が用意した黒い仮面を掲げる。 「心の奥に潜む不安を、この仮面に預けてください。大丈夫です、怖くありません。落としても割れません」 「最後の一言で台無しだろ」 会長の突っ込みに、会場からどっと笑いが起きた。だが笑いのあと、妙な熱が残る。副長はその流れを逃さず、続ける。 「避難経路は、こちらです。非常口は二か所。倒れそうなら座ること。水分も忘れずに」 「儀式というより、防災じゃないか」 「似ています。大切なのは、備えることです」 その言葉に、参加者たちの表情が少し変わった。黒い布の奥で何かを試されるはずが、いつの間にか、自分たちも含めて守る手順を確かめている。子どもが真似をして深呼吸し、店主が 「家でもやろうかな」 とうなずく。 会長は壇上の端で、その様子を見下ろした。 「なんでだ……怖がらせるはずだったのに」 「怖いことを、わかりやすくしたからでしょう」 副長が静かに言う。 「難しい説明より、先に安心を渡したほうが、人は動ける」 若い幹部が帳面を開き、目を丸くした。 「入場協力金、もう結構集まってます」 「そこで報告するな。余計に胡散臭くなる」 けれど会場は、胡散臭さを笑い飛ばしたまま、手順に合わせて拍手まで始めた。最後の説明が終わるころには、見物客の顔つきはすっかり軽くなっている。誰かが 「これ、またやってほしい」 と言い、別の誰かが 「子ども会でも使える」 とつぶやいた。 会長は仮面を片手に持ったまま、ため息をついた。 「……資金集めのはずだったよな」 「ええ。でも、ずいぶん集まりました」 副長の答えに、会長は苦い顔のまま黙る。会場の熱気は、怖さではなく連帯感で膨らんでいた。まるで、秘密結社のショーがそのまま地域の講習会になったみたいに。 壇上の下では、誰かがもう次の説明を求めている。会長はその声を聞きながら、黒い布の端をつまんだ。 「……次は、もっと悪そうに見せる方法を考えるか」 そう言った瞬間、前列の子どもが元気よく手を挙げた。 「ねえ、仮面の付け方、教えて!」

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