エラベノベル堂

秘密結社の便利屋

全年齢

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7章 / 全10

黒曜会の名前は、いつの間にか町の外へも広がっていた。最初は駅前の看板を直す正体不明の手伝い屋だったのに、今では道の補修や商店街の再編、揉めた親族の間を取り持つ相談まで舞い込む。黒い外套に仰々しい名乗りという妙な演出が、かえって信頼の印になってしまったのだ。 冬真は帳簿を閉じ、増え続ける依頼書の束を見つめた。赤字は消え、維持費の心配もほとんどなくなっている。けれど驚くべきはそこではない。仕事を終えるたび、町の空気が少しずつやわらいでいくことだった。通りに置きっぱなしだった古い荷物が片づき、閉じたままだった店の扉が開き、何年も口をきかなかった隣人が並んで笑う。黒曜会はただ目の前の困りごとを片づけただけなのに、そのたびに別の場所でも結び目がほどけていった。 ある日、町長が自ら会議室へ現れた。以前は警戒を隠さなかった男が、今では深く頭を下げている。 「この町の相談役を、正式に任せたい」 差し出された書類には、行政の印と、住民たちの連名が並んでいた。冬真は言葉を失った。秘密結社に公認の仕事を頼むなど前代未聞だが、断る理由もない。仲間たちは顔を見合わせ、呆れたように笑ったあと、どこか誇らしげに胸を張った。 その夜、黒曜会は久しぶりに静かな会議を開いた。誰かが言う。 「結局、うちは何をしているんだろうな」 冬真は少し考えてから答えた。 「たぶん、儲けながら、町を元気にする商売です」 誰も反論しなかった。悪事を働かずとも、面白いことはできる。しかも、思った以上に感謝される。机の上には次の依頼書が山になっている。町の外れで空き家を再生してほしい、祭りの準備を手伝ってほしい、離れていた家族をつなぎ直してほしい。どれも小さいのに、確かに誰かの明日を変える仕事だった。 冬真はペンを取り、最初の一枚に印を押した。黒曜会は存続の危機を越え、予想外のやり方で世界を少しだけ良くしてしまう商売を、この先も続けていく。もう誰にも止められなかった。

7章 / 全10

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